税理士が依頼者のためにした税務申告の手続において過少申告等があった場合に更正等により納付すべきこととなる本税等の税額の全部又は一部に相当する金額につき税理士が依頼者に対して行う支払をてん補しない旨の税理士職業賠償責任保険約款の免責条項は,税理士が依頼者に賠償すべき損害が消費税法(平成6年法律第109号による改正前のもの)9条4項に規定する課税事業者選択届出書の提出を怠ったという税理士の税制選択上の過誤により生じたものである場合には,依頼者に有利な課税方式が適用されないことにより形式的にみて過少申告があったとしても,上記損害の賠償については適用されない。
税理士が依頼者に賠償すべき損害が消費税法に定める税制選択に必要な届出書の提出を怠ったという過誤により生じたものである場合における税理士職業賠償責任保険約款の免責条項の適用の有無
民法91条,商法629条,消費税法(平成6年法律第109号による改正前のもの)9条
判旨
税理士職業賠償責任保険の免責特約は、不正な過少申告等の助長防止を趣旨とするものである。そのため、税理士が課税事業者選択届出書の提出を怠ったという税制選択上の過誤により生じた損害については、形式的な過少申告があっても同特約は適用されない。
問題の所在(論点)
税理士が消費税の「課税事業者選択届出書」の提出を怠ったために依頼者が還付を受けられず、その損害を賠償した場合、保険約款の免責条項(本来納付すべき税額相当額の免責)が適用されるか。
規範
税理士職業賠償責任保険における「本来納付すべき税額の全部又は一部に相当する金額」を免責とする特約条項の趣旨・目的は、不正な過少申告等に関わった税理士が、損害賠償を通じた保険金の受領により、納税申告に係る不正を助長することを防止する点にある。したがって、税理士の賠償すべき損害が、課税事業者選択届出書の提出を怠ったという「税制選択上の過誤」により生じたものである場合には、形式的に過少申告があったとしても、本特約条項の適用はないと解する。
重要事実
税理士である被上告人は、依頼者Eの消費税申告に際し、還付を受けるために必要な「課税事業者選択届出書」を期限内に提出することを失念した。しかし、被上告人は提出済みと誤認したまま、還付を受けるための申告(本件申告)を行った。税務署は届出書がないことを理由に本件申告を無効とし、Eは還付を受けられなかった。Eは被上告人に対し損害賠償を求め、和解により被上告人が4000万円を支払った。被上告人は加入する職業賠償責任保険に基づき保険金を請求したが、保険会社(上告人)は、過少申告等に係る税額相当額を免責とする特約条項を根拠に支払を拒絶した。
あてはめ
本件における損害の本質は、税理士が適切な時期に税制上の選択(届出)を行わなかったという「税制選択上の過誤」にある。本件申告は、届出を前提とした依頼者に有利な還付申告であったが、届出漏れにより形式的に過少な申告となったに過ぎない。これは、本特約が防止しようとする「不正な過少申告等の助長」という場面には当たらない。したがって、本件の賠償額(和解金)は、特約条項が定める免責対象には該当しないというべきである。
結論
本件には免責特約の適用はなく、保険会社は保険金の支払義務を負う。上告棄却。
実務上の射程
税理士の「税制選択のミス」による損害賠償事案全般(消費税の課税選択、簡易課税の選択失念等)について、保険会社の免責主張を制限する強力な論理として活用できる。特約の文言を形式的に解釈せず、その趣旨(不正助長の防止)に遡って適用範囲を限定する解釈手法は、他の職業賠償責任保険の解釈においても参考になる。
事件番号: 平成14(受)310 / 裁判年月日: 平成14年10月3日 / 結論: 棄却
1 被保険者が保険契約者又は保険金受取人の故意により死亡した場合には死亡保険金を支払わない旨の生命保険契約上の免責条項は,被保険者を故意に死亡させた第三者の行為が,公益や信義誠実の原則に照らして保険契約者又は保険金受取人の行為と同一のものと評価される場合を含む。 2 生命保険契約の保険契約者兼保険金受取人である有限会社…