衣料品の卸売業者と小売業者との間における周知性のある他人の商品等表示と同一又は類似のものを使用した商品の売買契約は,当事者がそのような商品であることを互いに十分に認識しながら,あえてこれを消費者の購買のルートに乗せ,他人の真正な商品であると誤信させるなどして大量に販売して利益をあげようと企て,この目的を達成するために継続的かつ大量に行ったものであって,単に不正競争防止法及び商標法に違反するというだけでなく,経済取引における商品の信用の保持と公正な経済秩序の確保を害する著しく反社会性の強いものであるなど判示の事情の下においては,民法90条により無効である。
衣料品の卸売業者と小売業者との間における周知性のある他人の商品等表示と同一又は類似のものを使用した商品の売買契約が民法90条により無効とされた事例
民法90条,不正競争防止法2条1項1号,不正競争防止法13条1号,商標法78条
判旨
周知な他人の商品表示と同一・類似のものを使用した商品を、誤認混同を利用して販売し利益を得る目的で継続・大量に行った取引は、単なる法違反に留まらず、公正な経済秩序を害する著しく反社会性の強い行為として民法90条により無効である。
問題の所在(論点)
不正競争防止法や商標法に違反する商品の売買契約は、いかなる場合に民法90条の公序良俗に反し無効となるか。売主・買主双方が違法性を認識し、かつ反社会的な目的を有している場合の契約の効力が問題となる。
規範
特定の取引が民法90条の公序良俗に反し無効となるかは、当該行為の態様、目的、反社会性の強さを総合的に考慮して判断される。特に、不正競争防止法や商標法に抵触する商品の取引において、(1)周知性のある他人の表示と酷似していることの認識、(2)消費者の誤信を利用して不当な利益を得る企図、(3)継続的・大量な販売態様、(4)経済取引における信用の保持と公正な経済秩序を害する程度の強さを充足する場合、当該契約は著しく反社会性が強く無効となる。
事件番号: 昭和42(オ)1357 / 裁判年月日: 昭和43年3月28日 / 結論: 棄却
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重要事実
衣料品卸売業者X(被上告人)は、小売業者Y(上告人)に対し、米国D社の著名な標章に酷似したインドネシア製衣料品(本件商品)を販売した。Yは過去にD社から警告を受けて違法性を認識していたが、消費者の誤認混同を利用して売上を伸ばそうと考え、D社の真正品に見せかける販売方法を採った。Xもまた、本件商品がD社標章を故意に模倣したものであることを認識しつつ、Yに対し問題ないと虚偽の説明をして取引を促した。両者は警察の強制捜査を受けるまで、長期間にわたり大量の本件商品を流通させ、多額の売買代金債権が発生した。
あてはめ
本件取引において、XとYは本件商品がD社の表示と酷似することを互いに十分に認識していた。その上で、消費者を真正品と誤信させて大量販売し、利益を上げるという「強固な犯意」を共通して有していたといえる。このような行為は、単なる行政・刑事規制の対象となるだけでなく、経済取引における商品の信用の保持と、公正な経済秩序の確保を根本から害するものである。したがって、本件商品の売買契約は、著しく反社会性の強い行為を内容とするものと評価される。
結論
本件商品の売買契約は民法90条により無効である。したがって、卸売業者Xは小売業者Yに対し、当該商品の売買契約に基づく残代金の支払を請求することはできない。
実務上の射程
本判決は、売主と買主が通謀して知的財産権侵害商品を流通させているケースにおいて、契約の私法上の効力(代金請求権)を否定する根拠となる。答案上は、単なる法令違反だけでなく「公正な経済秩序を害する反社会性の強さ」を具体的事実から認定することが重要である。また、不法原因給付(民法708条)との関係についても、返還請求の可否において本判決の法理が前提となる。
事件番号: 平成21(受)1539 / 裁判年月日: 平成22年7月9日 / 結論: 破棄差戻
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化粧品の製造販売を業とする被上告人はかねて化粧品の販売を業とする上告人より注文を受け同人の指示にしたがつて化粧品を製造して供給し、右化粧品は上告人の販売網を通じて他に売却されていたところ、昭和四一年二月二四日及び同年四月四日被上告人は上告人よりマニキュア、除光液及びアイライン等計四六〇〇ダースの注文を受け製造にとりかか…