取得時効の援用により不動産の所有権を取得してその旨の登記を有する者は,当該取得時効の完成後に設定された抵当権に対抗するため,その設定登記時を起算点とする再度の取得時効の完成を主張し,援用をすることはできない。
取得時効の援用により不動産の所有権を取得してその旨の登記を有する者が当該取得時効の完成後に設定された抵当権に対抗するためその設定登記時を起算点とする再度の取得時効を援用することの可否
民法144条,民法145条,民法162条,民法177条,民法397条
判旨
不動産の時効取得者が、時効完成後に設定された抵当権を消滅させるために、再度、起算点を後の時点(抵当権設定時等)にずらして取得時効の完成を主張・援用することはできない。
問題の所在(論点)
不動産の時効完成後、登記を了する前に設定された抵当権に対し、占有者が時効完成後の一定時点を新たな起算点として、重ねて取得時効を主張(再度の取得時効)することが認められるか。
規範
不動産の時効取得者は、時効の援用により目的物の所有権を原始取得し、その効果は占有開始時に遡及する(民法144条)。時効完成によって確定的に所有権を取得した以上、その後の特定の時点を起算点として、再度、重ねて取得時効の完成を主張し、これを援用することは認められない。
重要事実
被上告人(占有者)は、昭和37年から本件土地の占有を開始し、昭和57年に20年の取得時効が完成した。しかし、登記未了の間に、所有者Dが昭和58年に訴外会社のため抵当権を設定し登記を了した。その後、上告人が当該抵当権を譲り受けた。被上告人は、昭和57年の時効完成を原因とする所有権移転登記を平成11年に行った上で、さらに「抵当権設定時を起算点として再度10年の時効が完成した」と主張し、抵当権の消滅を求めて提訴した。
事件番号: 昭和25(オ)377 / 裁判年月日: 昭和27年12月4日 / 結論: 棄却
四月一三日に成立した消費貸借上の債務につき、同月三〇日になされた抵当権設定登記において、右消費貸借成立の日が三月三一日と表示されていても、同一の消費貸借を表示するものである以上、右登記は有効である。
あてはめ
被上告人は、昭和37年を起算点とする時効援用により、同日に遡って本件土地を原始取得し、既に登記も備えている。この時効援用により被上告人は確定的に所有権を取得したといえる。そうである以上、起算点を後の時点(昭和58年の抵当権設定時)にずらして、再度、取得時効の完成を主張することは、既に取得した権利を重ねて主張することになり、法理上認められない。したがって、時効完成後の第三者である抵当権者に対し、再度の時効取得を理由として抵当権の消滅を主張することはできない。
結論
被上告人は、再度の取得時効を援用して本件抵当権を消滅させることはできず、抵当権抹消登記請求は認められない。
実務上の射程
時効完成後の第三者(抵当権者や譲受人)に対しては、登記を先に備えた者が優先するという対抗問題(177条)として処理されるのが原則である。本判決は、この原則を潜脱するような「起算点の任意選択」や「再度の時効取得」を否定したものであり、答案上は、時効完成後の第三者との関係で177条の適用を論じた後、再度の時効取得の主張を封じる文脈で使用する。
事件番号: 昭和35(オ)1470 / 裁判年月日: 昭和38年1月22日 / 結論: 棄却
右登記を無効として抹消を求めることはできない。(昭和三〇年(オ)第六三二号同三三年五月九日第二小法廷判決、民集一二巻九八九頁参照)。
事件番号: 昭和35(オ)469 / 裁判年月日: 昭和37年2月16日 / 結論: 棄却
仮登記後本登記をするまでの間に、仮登記義務者により本登記の目的たる権利と相容れない処分が行われ、これに基づく第三者の権利取得の登記がなされたとしても、右本登記が為された以上、右第三者の権利取得は否認され、その登記の抹消を求めることができる。(同旨、昭和三二年六月七日第二小法廷判決、民集一一巻九三六頁、昭和三二年六月一八…
事件番号: 昭和62(オ)1076 / 裁判年月日: 昭和63年3月15日 / 結論: 破棄差戻
言渡期日の指定なくしてされた判決の言渡は、民訴法三八七条にいう「判決ノ手続カ法律ニ違背シタルトキ」に当たる。
事件番号: 昭和30(オ)632 / 裁判年月日: 昭和33年5月9日 / 結論: 棄却
被担保債権である現存の債権および将来成立すべき条件付債権を、現存の貸金債権と表示してなされた抵当権設定登記であつても、当事者が真実その設定した抵当権を登記する意思で登記手続を終えた以上、これを当然に無効のものと解すべきではない