法人税法(平成15年法律第8号による改正前のもの)2条10号に規定する同族会社に当たる有限会社の代表者で出資持分の大半を有する社員が,同会社に対して3455億円を超える金員を無利息,無期限,無担保で貸し付けたことに所得税法(平成13年法律第6号による改正前のもの)157条の規定を適用され,利息相当分の雑所得があるとして所得税の増額更正を受けた場合において,上記貸付けは,不合理,不自然な経済活動であって,上記社員が経営責任を果たすために実行したとは認め難いものであること,税務当局に寄せられた相談事例及び職務執行の際に生じた疑義についての回答及び解説を国税局職員が編集又は監修をした解説書には,会社へ無利息貸付けをした代表者個人に所得税が課されることはない旨の記述があり,上記社員の顧問税理士等の税務担当者において税務当局が個人から法人への無利息貸付けに所得税を課さない旨の見解を採るものと解したため,前記利息相当分の雑所得はないとする申告がされたが,上記記述は,代表者の経営責任の観点から無利息貸付けに社会的,経済的に相当な理由があることを前提とするものであることなど判示の事情の下においては,前記利息相当分が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて国税通則法65条4項にいう正当な理由があるとは認められない。
同族会社の出資者が同会社に対してした無利息貸付けに所得税法(平成13年法律第6号による改正前のもの)157条の規定を適用されて所得税の増額更正を受けた場合において利息相当分を更正前の税額の計算の基礎としなかったことにつき国税通則法65条4項にいう正当な理由があるとは認められないとされた事例
国税通則法65条4項,所得税法(平成13年法律第6号による改正前のもの)157条,法人税法(平成15年法律第8号による改正前のもの)2条10号
判旨
所得税法157条1項に基づく同族会社の行為計算否認の適用有無は、貸付けの目的、金額、期間等の条件を個別具体的に検討すべきであり、公的性格を有する解説書に無利息貸付け非課税の記述があっても、事案を異にする場合は過少申告加算税を免れる「正当な理由」(国税通則法65条4項)には当たらない。
問題の所在(論点)
1. 本件のような多額の無利息貸付けに行為計算否認規定を適用することの是非。 2. 税務当局の役職者が関与した解説書の記述を信頼して申告しなかったことに、過少申告加算税を免除する「正当な理由」が認められるか。
規範
1. 同族会社の行為計算否認(所得税法157条1項)の適用有無については、当該貸付けの目的、金額、期間等の融資条件、無利息としたことの理由等を踏まえ、個別・具体的な事案に即して検討されるべきである。 2. 過少申告加算税を課さない「正当な理由」(国税通則法65条4項)とは、真に納税者の責めに帰すべきでない事由がある場合を指す。税務当局の見解を反映した解説書の存在がこれに当たるかは、解説書の記述内容と当該事案の事実関係が実質的に同一といえるかによって判断される。
重要事実
個人である納税者(被上告人)が、自己の支配する同族会社に対し、銀行から借り入れた約3455億円を無利息・無期限・無担保で貸し付けた。同社は実質的な営業活動を行っておらず、当該資金は自社株式の購入代金等に充てられた。納税者は、税務当局の役職者が編集・監修した解説書等に「個人から法人への無利息貸付けは所得税を課さない」旨の記述があったことを根拠に、利息相当額を雑所得として申告しなかった。これに対し税務署長は、行為計算否認規定を適用して更正処分及び過少申告加算税の賦課決定を行った。
あてはめ
1. 本件貸付けは、3455億円余という巨額でありながら無利息・無期限・無担保という極めて不自然な形態であり、経営責任を果たすための実行といった特段の事情も認められない。したがって、不自然な経済的活動として行為計算否認の適用は適法である。 2. 解説書の記述は、少額の運転資金(500万円)の貸付けや、業績悪化等の社会的・経済的に相当な理由がある場合を前提としており、本件のような巨額かつ不自然な貸付けとは事案を異にする。当時の裁判例に照らせば、税務担当者において本件規定の適用可能性を疑うべきであったといえるため、解説書の存在をもって「正当な理由」があるとは認められない。
結論
本件貸付けへの行為計算否認規定の適用は適法であり、また、納税者が主張する解説書の信頼についても、事案の特殊性から「正当な理由」には当たらず、過少申告加算税の賦課決定は適法である。
実務上の射程
行政指導や解説書の公表内容が、直ちに「正当な理由」を基礎付けるわけではないことを示した。特に、解説書に示された設例と事案の事実関係(金額の多寡や目的)が著しく異なる場合には、納税者側の注意義務が厳格に問われるため、答案上は事実の類似性の有無を慎重に検討する必要がある。
事件番号: 平成17(行ヒ)9 / 裁判年月日: 平成18年4月20日 / 結論: その他
1 納税申告手続を委任された税理士が隠ぺい,仮装行為をして過少申告をした場合,納税者において当該税理士が上記行為を行うこと若しくは行ったことを認識し,又は容易に認識することができ,法定申告期限までにその是正や過少申告防止の措置を講ずることができたにもかかわらず,納税者においてこれを防止せずに上記行為が行われ,それに基づ…
事件番号: 平成16(行ヒ)86 / 裁判年月日: 平成18年4月25日 / 結論: その他
1 納税申告手続を委任された税理士が納税者に無断で隠ぺい,仮装行為をして過少申告をした場合において,納税者が同税理士を信頼して適正な申告を依頼し,納税資金を交付したにもかかわらず,同税理士が上記行為をして納税資金を着服したものであり,納税者において同税理士が隠ぺい,仮装行為を行うことを容易に予測し得たということはできず…
事件番号: 平成18(行ヒ)295 / 裁判年月日: 平成19年7月6日 / 結論: その他
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事件番号: 平成10(行ツ)77 / 裁判年月日: 平成16年9月7日 / 結論: 破棄自判
会社がその代表者に代わって同人の借入金の利息を支払ったことにより,その経済的利益に相当する同人に対する給与等(賞与)の支払があったことになって会社に源泉徴収による所得税の納税義務が客観的に成立したが,実際にされた納税の告知は,会社が同人に上記利息相当額を無利息で貸し付け,この貸付けに係る得べかりし利息相当額の経済的利益…