出向命令の内容が,使用者が一定の業務を協力会社に業務委託することに伴い,委託される業務に従事していた労働者に対していわゆる在籍出向を命ずるものであって,就業規則及び労働協約には業務上の必要によって社外勤務をさせることがある旨の規定があり,労働協約には社外勤務の定義,出向期間,出向中の社員の地位,賃金その他処遇等に関して出向労働者の利益に配慮した詳細な規定があるという事情の下においては,使用者は,当該労働者に対し,個別的同意なしに出向を命ずることができる。
使用者が労働者に対し個別的同意なしにいわゆる在籍出向を命ずることができるとされた事例
民法625条1項,労働基準法第2章 労働契約
判旨
在籍出向命令には、労働者の個別的同意がなくとも、就業規則や労働協約に出向労働者の処遇に配慮した詳細な規定があれば、包括的な同意に基づき発令権が認められる。また、その行使が権利濫用となるかは、業務上の必要性、対象者選定の合理性、労働者の不利益等を総合考慮して判断される。
問題の所在(論点)
1. 労働者の個別的同意がない在籍出向命令が、就業規則等の規定により有効に発令され得るか。 2. 長期間の出向命令が実質的に転籍(個別同意必須)と同視されるか。 3. 本件出向命令が権利の濫用に該当するか。
規範
1. 在籍出向命令権:就業規則や労働協約に「業務上の必要により社外勤務をさせることがある」等の規定があり、かつ出向中の処遇等について労働者の利益に配慮した詳細な規定(出向手当、昇格査定等)が存在する場合、労働者の個別的同意がなくとも包括的な同意を根拠に出向命令を発令できる。 2. 権利濫用法理:出向命令が適法であっても、(1)業務上の必要性、(2)対象者選定の合理性、(3)労働者が受ける生活・労働条件上の不利益、(4)手続の妥当性を考慮し、これらに欠ける場合は権利の濫用として無効となる(労働契約法14条参照)。
重要事実
事件番号: 平成11(受)805 / 裁判年月日: 平成15年4月18日
【結論(判旨の要点)】就業規則及び労働協約に出向を命じ得る旨の包括的規定があり、出向中の処遇等に配慮した詳細な規定が存する場合には、個別的同意なく在籍出向を命じることができる。また、当該出向命令が業務上の必要性、対象者の人選、労働者の不利益等を総合考慮し、権利の濫用(労働契約法14条)に当たらない限り、その効力は認めら…
鋼鉄メーカーである被上告人が、構内鉄道輸送業務を協力会社Eに委託することに伴い、従前当該業務に従事していた上告人らに対し、E社への在籍出向を命じた。上告人らの就業規則及び労働協約には社外勤務条項があり、特に労働協約(社外勤務協定)には出向中の賃金、退職金、昇給・昇格等の処遇に関する詳細な保護規定が設けられていた。上告人らは個別的同意がないことや、出向期間の長期化による実質的な転籍化、権利の濫用を理由に無効を主張した。
あてはめ
1. 命令権の根拠:社外勤務協定において出向中の地位や処遇に配慮した詳細な規定が存在するため、個別的同意を要せず出向を命じ得る。 2. 転籍との区別:出向元との労働契約関係が存続し、形骸化していない以上、期間が長期に及ぶとしても直ちに転籍と同視することはできない。 3. 権利濫用:業務委託に伴う要員措置として経営判断に合理性があり、対象者選定も適正である。業務内容や勤務場所に変更はなく、出向協定により労働条件も著しい不利益はないため、権利の濫用には当たらない。
結論
本件各出向命令は、個別的同意がなくとも有効に発令されており、権利の濫用にも当たらないため、有効である。
実務上の射程
在籍出向の有効性判断のリーディングケース。就業規則等の「社外勤務条項」だけでなく、不利益を緩和する「詳細な処遇規定」の有無が命令権根拠のポイントとなる。答案では、まず包括的合意による命令権の有無を論じ、次に権利濫用法理(必要性・人選・不利益)の枠組みで具体的事実をあてはめる構成をとる。
事件番号: 平成8(オ)128 / 裁判年月日: 平成12年1月28日 / 結論: 棄却
従業員数約二〇〇〇人の会社の東京都目黒区所在の技術開発本部に勤務する女性従業員に対し、同八王子市所在の事業所への転勤命令がされた場合において、同従業員が他の会社に勤務する夫及び保育園に通う長男と共に同品川区所在の借家に居住しており同所から右事業所へ通勤するには最短距離で片道約一時間四五分を要するなど判示の事実関係の下に…
事件番号: 昭和56(オ)856 / 裁判年月日: 昭和60年4月5日 / 結論: 棄却
使用者が労働者に対し、雇用契約上の身分を保有させながら第三者の指揮監督の下に労務を提供させる形態のいわゆる在籍出向を命じている場合に、右出向関係を解消して復帰を命ずるためには、特段の事由のない限り、当該労働者の同意を得ることを必要としない。
事件番号: 昭和62(オ)30 / 裁判年月日: 平成元年9月19日 / 結論: 棄却
一 市町村の助役を取締役に選任する旨の株主総会決議は、当該株式会社が地方自治法一四二条の関係私企業に該当する場合であつても、有効である。 二 商法二七六条の規定により監査役との兼任を禁止されている者を監査役に選任する旨の株主総会決議は、有効である。