使用者が労働者に対し、雇用契約上の身分を保有させながら第三者の指揮監督の下に労務を提供させる形態のいわゆる在籍出向を命じている場合に、右出向関係を解消して復帰を命ずるためには、特段の事由のない限り、当該労働者の同意を得ることを必要としない。
いわゆる在籍出向中の労働者に対する復帰命令と当該労働者の同意の要否
民法625条1項
判旨
在籍出向中の労働者に対し、出向元が出向先の同意を得て復帰を命ずる場合、特段の事情がない限り、労働者本人の同意を得る必要はない。出向元での労務提供は当初の雇用契約で合意されており、復帰命令は本来の態様に差し戻すものにすぎないからである。
問題の所在(論点)
在籍出向中の労働者に対し、出向元が出向先との合意に基づき復帰を命ずるにあたり、当該労働者の個別的同意が必要となるか。当初の雇用契約における労務提供合意の変容が認められるか。
規範
在籍出向中の労働者に対し、出向元が出向先の同意を得て復帰命令(出向解除)を行う際、原則として労働者の同意は不要である。ただし、出向元へ復帰させないことを予定して出向が命じられ、将来にわたり再び出向元の指揮監督下で労務提供することはない旨の合意が成立したと認められるなどの「特段の事由」がある場合は、この限りではない。
重要事実
被上告人(出向元)は、原子力部門を分離し他社と共同で新会社(出向先)を設立した際、上告人を含む従業員151名を在籍出向させた。出向先は設立間もなく、人員調整や適正配置の必要性から、一部の出向者が復帰する可能性が流動的な状態にあり、労働者側もその可能性を予定して出向に同意していた。その後、出向元は設立から半年足らずの時点で上告人に対し復帰命令を出したが、上告人はこれに同意が必要であるとして争った。
事件番号: 昭和50(オ)250 / 裁判年月日: 昭和52年10月14日 / 結論: 棄却
控訴審において当事者参加がなされた場合において、右参加の訴に対し参加被告が反訴を提起するには、参加人の同意を要しない。
あてはめ
在籍出向は一時的に指揮監督権を移転させるものであり、出向元での労務提供は当初の雇用契約で既に合意されている。本件では、新会社が独立した企業基盤を確立するまでの間、人事上の都合により復帰があり得ることを双方が予定して出向が行われている。したがって、将来にわたり出向元に戻らないとの合意(特段の事由)は認められず、当初の雇用契約における合意内容は変容していない。ゆえに、復帰命令に際し改めて労働者の同意を得る必要はないと判断される。
結論
本件復帰命令は有効であり、労働者の同意は不要である。
実務上の射程
在籍出向解除(復帰命令)の適法性に関するリーディングケース。答案では、出向命令時の同意の有無だけでなく、復帰を予定しない完全な転籍に近い合意がなされていないかを検討する際に、本判例の「特段の事由」の枠組みを用いる。実務上も、復帰が原則であることを確認する重要な基準となっている。
事件番号: 平成11(受)805 / 裁判年月日: 平成15年4月18日 / 結論: 棄却
出向命令の内容が,使用者が一定の業務を協力会社に業務委託することに伴い,委託される業務に従事していた労働者に対していわゆる在籍出向を命ずるものであって,就業規則及び労働協約には業務上の必要によって社外勤務をさせることがある旨の規定があり,労働協約には社外勤務の定義,出向期間,出向中の社員の地位,賃金その他処遇等に関して…
事件番号: 昭和59(オ)320 / 裁判年月日: 昭和60年1月31日 / 結論: 破棄自判
私立大学の退職金規程が職員の死亡退職金を「遺族」に支給するとのみ定めている場合には、その受給権者は、相続人ではなく、職員の死亡の当時、主としてその収入により生計を維持していた配偶者(届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)が第一順位の受給権者となると解すべきである。
事件番号: 昭和46(オ)540 / 裁判年月日: 昭和47年6月15日 / 結論: 破棄差戻
家屋賃貸人甲が、賃借人乙から丙への家屋の一部の無断転貸を理由に賃貸借契約を解除し、その後右家産を丙に譲渡した場合において、丙が、転借後約三年間転借部分を占有使用して、転貸借による利益を享受していた者であり、しかも、転借に際し、転貸についての家主の了解を丙みずから求めてもよい旨を乙に申し出ていながら、その後承諾を得るため…
事件番号: 平成9(オ)2156 / 裁判年月日: 平成10年12月18日 / 結論: 棄却
卸売業者が小売業者に対していわゆるカウンセリング販売を義務付ける特約店契約中の約定が独占禁止法一九条に違反しない場合には、右小売業者に対して特約店契約を締結していない小売店等に対する卸売販売を禁止することも、同条に違反しない。