家屋賃貸人甲が、賃借人乙から丙への家屋の一部の無断転貸を理由に賃貸借契約を解除し、その後右家産を丙に譲渡した場合において、丙が、転借後約三年間転借部分を占有使用して、転貸借による利益を享受していた者であり、しかも、転借に際し、転貸についての家主の了解を丙みずから求めてもよい旨を乙に申し出ていながら、その後承諾を得るための努力を払つた形跡もないなど判示の事情があるときは、丙において、乙に対し、右賃貸借契約の解除を主張し、家屋所有権に基づき乙の占有部分の明渡を求めることは、信義則に反しまたは権利の濫用にあたるものであつて、許されない。
賃貸家屋の一部の無断転貸を理山に賃貸借契約が解除されたのちに右家屋を譲り受けた転借人の賃借人に対する明渡請求が許されないとされた事例
民法1条,民法612条
判旨
賃貸借契約を解除される原因となった無断転貸借の当事者(転借人)が、後に目的物の所有権を取得した上で、自らが当事者となった転貸借の違法性を主張して賃借人に明渡しを求めることは、信義則上許されない。
問題の所在(論点)
無断転貸借の当事者である転借人が、後に目的物の所有権を取得した場合に、自ら関与した無断転貸による解除の効力を主張して賃借人に明渡しを求めることが、信義則(民法1条2項)に反するか。
規範
自ら無断転貸借の当事者として利益を享受していた者が、後に当該物件の所有権を取得したからといって、一転して当該転貸借の違法性を理由とする賃貸借契約解除の効力を自己に有利に援用することは、特段の事情のない限り、信義則(民法1条2項)に反し、または権利の濫用(同条3項)として許されない。
重要事実
賃借人(上告人)は、家屋の階下部分を被上告人に転貸した。賃貸人は無断転貸を理由に契約を解除したが、その後、転借人である被上告人が家屋を買い受け、所有権を取得した。被上告人は所有権に基づき、賃借人に対し二階部分の明渡しを求めて提訴した。転貸の際、被上告人は「自分が賃貸人の了解を得てもよい」旨を申し出ていたが、実際には承諾を得る措置を講じていなかった。
あてはめ
被上告人は約3年間にわたり転貸借による利益を享受していた者である。また、転貸の際に自己が賃貸人の了解を得る旨を申し出ており、上告人がこれを信頼して自ら承諾を得る努力を怠った経緯に照らせば、承諾が得られなかったことの主たる責任は被上告人にある。それにもかかわらず、被上告人が所有権取得後に一転して転貸借の違法性を主張し、解除の効果を自己に有利に援用して明渡しを求めることは、自己の矛盾した態度により相手方の信頼を裏切るものであり、著しく信義に反する。
結論
被上告人による明渡請求は、信義則に反し、または権利の濫用であって許されない。
実務上の射程
本判決は、無断転貸の解除後に転借人が所有権を得たという特殊な事例であるが、信義則における「禁反言の法理」を具現化したものといえる。答案上は、形式的には権利行使の要件を満たす場合であっても、その権利発生の原因に自ら加担し、かつ相手方に信頼を生じさせた事情がある場合に、権利行使を阻止する論拠として活用できる。
事件番号: 昭和28(オ)940 / 裁判年月日: 昭和31年12月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃借人が賃貸人の承諾なく賃借物を他人に使用させた場合でも、それが賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、賃貸人は民法612条2項に基づく解除権を行使できない。 第1 事案の概要:賃借人(上告人)は、賃貸人(被上告人)の承諾を得ることなく、賃借物である家屋の一部を訴外Dに転…