不動産工事の先取特権の対象となるべき不動産の増価額が不動産競売手続における評価人の評価又は最低売却価額の決定に反映されていないことは,同先取特権の被担保債権が優先弁済を受けるべき実体的権利に影響を与えない。
不動産工事の先取特権の対象となるべき不動産の増価額が不動産競売手続における評価人の評価又は最低売却価額の決定に反映されていないことが同先取特権によって優先弁済を受けるべき実体的権利に与える影響の有無
民法327条,民法338条2項
判旨
不動産工事の先取特権による優先弁済権は、競売手続における評価額や最低売却価額への増価分の反映の有無にかかわらず、競売時に現存する実際の増価額の限度で認められる。
問題の所在(論点)
不動産工事の先取特権による優先弁済が認められるためには、競売手続における評価や最低売却価額の決定過程において、当該工事による増価分が具体的に反映されている必要があるか。
規範
不動産工事の先取特権(民法327条)は、工事による増価額が現存する場合に限り、登記された予算額の範囲内で抵当権に優先する(339条)。この増価額は競売手続における評価人の評価(338条2項、民執法58条)を経て考慮されるが、評価や最低売却価額の決定に増価分が反映されているか否かは、先取特権者が優先弁済を受けるべき実体的権利には影響しない。売却時に現存する増価額の有無及び額は、配当異議訴訟において主張・立証することが可能である。
重要事実
請負人Xは本件土地の造成工事を行い、不動産工事先取特権の保存登記を経由した。その後、土地所有者の債権者である銀行Eが根抵当権を実行し、競売手続が開始された。競売における評価人は「工事が施されたとは認めにくい」として増価分を考慮せずに評価額を算出し、裁判所もこれに基づき最低売却価額を決定した。土地は買受人Gに売却されたが、配当表においてXへの配当は0円とされた。Xは、売却時点での増価額620万円について優先弁済を主張し、配当異議を申し立てた。
あてはめ
民法338条2項の評価は増価額を確定する性質のものではなく、最低売却価額も売却の指標に過ぎない。本件において、評価人が工事の進捗を見落とし、競売手続上は増価分が考慮されていなかったとしても、客観的に本件土地に工事による増価額が620万円現存していた事実に変わりはない。実体法上の優先弁済権は、手続上の評価の適否に左右されるものではなく、現存する増価額に基づき行使されるべきである。したがって、Xは増価額620万円の範囲で根抵当権に優先して配当を受けることができる。
結論
不動産工事の先取特権は、競売手続での増価分の反映の有無に関係なく、競売時に現存する増価額につき抵当権に優先する。よって、増価額620万円の限度で配当表を変更すべきである。
実務上の射程
抵当権と不動産工事先取特権の優劣が問題となる事案で活用する。競売手続で工事の価値が看過された場合でも、配当異議訴訟において実体的な増価額を立証すれば優先弁済を受けられるという救済の道を示す射程を持つ。答案では、手続的な不備が実体法上の優先権を消滅させないことを強調する際に引用する。
事件番号: 平成13(受)1567 / 裁判年月日: 平成14年10月22日 / 結論: 破棄自判
共同抵当の目的となった数個の不動産の代価を同時に配当すべき場合に,1個の不動産上にその共同抵当に係る抵当権と同順位の抵当権が存するときは,まず,当該1個の不動産の価額を同順位の各抵当権の被担保債権額の割合に従って案分し,次に,共同抵当権者への案分額及びその余の不動産の価額に準じて共同抵当の被担保債権の負担を分けるべきで…