木造建物の所有を目的とする土地の使用貸借について、契約締結後約三八年八箇月を経過し、この間に貸主と借主の間の人的つながりの状況が著しく変化しているという事実関係の下では、借主には右建物以外に居住する所がなく、貸主には右土地を使用する必要等特別の事情が生じていないというだけでは、使用収益をするのに足りるべき期間の経過を否定することができない。
木造建物の所有を目的とする土地の使用貸借につき使用収益をするのに足りるべき期間の経過を否定することができないとされた事例
民法597条2項
判旨
建物所有を目的とする土地の使用貸借において、民法597条2項ただし書(現行598条2項)の「使用収益をするのに足りる期間」が経過したか否かは、経過年月や当事者間の人的つながりの変化、貸主の必要性など諸般の事情を比較衡量して判断すべきである。
問題の所在(論点)
建物所有を目的とする土地の使用貸借において、建物が朽廃していない場合であっても、民法597条2項ただし書(現行598条2項)に基づく解約の申入れが認められるか。
規範
土地の使用貸借において、民法597条2項ただし書(現行598条2項)所定の「使用収益をするのに足りるべき期間」が経過したか否かは、①経過した年月、②土地が無償で貸借されるに至った特殊な事情、③その後の当事者間の人的つながり、④土地使用の目的、方法、程度、⑤貸主の土地使用を必要とする緊要度など、双方の諸事情を比較衡量して判断すべきである。
重要事実
上告人(株式会社)の元代表者Dは、二男である被上告人に本件建物を取得させ、本件土地を無償で使用させた(使用貸借)。その後Dが死亡し、Dの長男Eと被上告人との間で会社経営をめぐる紛争が生じ、被上告人は取締役の地位を喪失した。使用開始から約38年が経過したが、建物は朽廃しておらず、被上告人には他に居住場所がない一方、上告人には土地使用を必要とする特段の事情はなかった。
あてはめ
まず、約38年という長年月が経過している(①)。次に、貸主と借主が親族関係に基づく人的つながりから無償貸借に至った経緯があるところ、Dの死亡や経営紛争、取締役退任により、その人的つながりは著しく変化している(③)。これらの事情は期間経過を肯定する方向に働く。これに対し、建物が朽廃していないことは期間経過を否定する事情とはいえず(④の不適用)、借主に居住場所がないことや貸主に緊急の必要性がないこと(⑤)のみでは、期間経過を否定する事情として不十分である。
結論
約38年の経過や人的関係の変化を考慮すれば、建物が朽廃していなくとも「使用収益をするのに足りるべき期間」が経過したと認められる余地がある。
実務上の射程
建物所有目的の使用貸借の終了時期について、単に建物の「朽廃」を待つのではなく、諸般の事情による比較衡量を認めた。特に親族間・同族会社間での人間関係の破綻(信頼関係の喪失)を考慮要素として明示した点に意義がある。答案では、契約の目的に照らした「投下資本の回収」と「無償貸借の根拠となった人的信頼関係」の双方からあてはめるべきである。
事件番号: 昭和42(オ)821 / 裁判年月日: 昭和42年11月24日 / 結論: 棄却
父母を貸主とし、子を借主として成立した返還時期の定めがない土地の使用貸借であつて、使用の目的は、建物を所有して会社の経営をなし、あわせて、右経営から生ずる収益により老父母を扶養する等判示内容のものである場合において、借主は、さしたる理由もなく老父母に対する扶養をやめ、兄弟とも往来をたち、使用貸借当事者間における信頼関係…
事件番号: 昭和44(オ)1017 / 裁判年月日: 昭和47年2月10日 / 結論: 棄却
土地賃貸借契約成立の事情として、賃貸人は、当初、賃借人の借地申入れに対し、他人に土地を貸すときは回収が困難になるとして賃貸することに反対していたが、賃借人や仲介に入つた知人から、一時しのぎに僅かな土地でもよいし、何時でも取り払える仮小屋の建物でよいから」と執拗に懇請され、やむなくバラツク建物に限り建築を許す趣旨で、約六…
事件番号: 昭和43(オ)52 / 裁判年月日: 昭和43年11月19日 / 結論: 棄却
一時使用の目的で賃借した土地上に建築された仮設建物を買い受けるとともに賃貸人の承諾なしに賃借権の譲渡を受けた者との間で、賃貸人が土地の一部を右譲受人に売却し、他を明け渡す旨の約束ができたが、譲受人が代金を払わないため右売買契約が解除され、そのため右土地の明渡について話合がされ、結局一〇年の賃貸借契約が締結されるに至つた…