有責配偶者である夫(大正一五年四月生)からの離婚請求であつても、夫婦の別居期間が約一五年六か月に及び、その間の子が夫と同棲する女性に四歳時から実子同然に育てられて一九歳に達しており、妻(昭和九年三月生)は別居期間中夫所有名義のマンションに居住し、主に夫から支払われる婚姻費用によつて生活してきたものであり、しかも、妻が離婚によつて被るべき経済的・精神的不利益が離婚に必然的に伴う範囲を著しく超えるものではないなど判示の事情の下では、右離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情があるとはいえない。 (反対意見がある。)
有責配偶者からの離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情があるとはいえないとされた事例
民法1条2項,民法770条
判旨
有責配偶者からの離婚請求であっても、別居が相当長期に及び、未成熟の子が存在せず、相手方が苛酷な状態に置かれる等の特段の事情がない限り、認容され得る。
問題の所在(論点)
婚姻を破綻させた主たる責任がある有責配偶者からの離婚請求について、信義則上許容されるための要件、及び「苛酷条項(特段の事情)」の具体的判断基準が問題となる。
規範
民法770条1項5号所定の事由による離婚請求が、破綻につき専ら責任のある有責配偶者からなされた場合、①夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、②その間に未成熟の子が存在しない場合には、③相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等、請求の認容が著しく社会正義に反するといえるような特段の事情のない限り、信義則(1条2項)に反せず許容される。
重要事実
夫(上告人)と妻(被上告人)は昭和42年に婚姻し長男をもうけた。夫は部下との親密な関係を疑われたこと等から、昭和47年に長男を連れて家を出て当該女性と同棲を開始し、約15年間にわたり別居を継続した。別居中、夫は社会保険から妻を外そうとしたり、確定した婚姻費用の支払を強制執行まで拒むなど不誠実な態度をとった。長男は19歳半に達し、大学で寮生活を送っている。妻は定職がなく、離婚による経済的窮乏や精神的苦痛を理由に離婚を拒絶した。
あてはめ
第一に、別居期間は約15年6か月に及び、同居期間や年齢と対比して「相当の長期間」といえる。第二に、長男は19歳半で大学生活を送っており、もはや「未成熟の子」は存在しない。第三に、妻が主張する経済的・精神的不利益は、離婚に必然的に伴う範囲を著しく超えるものではなく、「極めて苛酷な状態」とは認められない。夫の不誠実な態度も、紛争の経緯に照らせば特段の事情を肯定するほど過大に評価すべきではない。したがって、本件離婚請求は原則として認容されるべきである。
結論
本件離婚請求は、特段の事情がない限り信義則に反せず許容される。原審が特段の事情を肯定して請求を棄却したのは法解釈の誤りがあるため、破棄差し戻しとする。
実務上の射程
有責配偶者からの離婚請求に関する大法廷判決(最大判昭62.9.2)の3要件を具体的事案に適用した重要事例である。「未成熟の子」の該非(本件では19歳半)や、「苛酷条項」のハードルの高さ(単なる経済的不安では足りない点)を論証する際の先例として活用すべきである。
事件番号: 昭和62(オ)1001 / 裁判年月日: 昭和63年2月12日 / 結論: 破棄差戻
有責配偶者からされた離婚請求であつても、夫婦が二二年間別居し、その間に未成熟子がいないときには、相手方配偶者が離婚によつて精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情のない限り、認容すべきである。
事件番号: 昭和63(オ)270 / 裁判年月日: 平成元年12月11日 / 結論: 棄却
裁判所は、離婚請求を認容するに際し、親権者の指定とは別に子の監護者の指定をしない場合であっても、申立により、監護費用の支払を命ずることができる。