産婦人科医院を開設している医師が、時期を逸しながら人工妊娠中絶の施術を求める女性にこれを断念させる方法として、当該女性に出産させた新生児を内容虚偽の出生証明書を発行してその養育を希望する者にあつせんするいわゆる実子あつせんを始め、二〇年間にわたり、産婦人科医師の団体等の批判、中止勧告をも無視して約二二〇件これを行い、そのうちの一例について医師法違反等により罰金二〇万円の刑に処せられたなどの判示の事実関係のもとでは、右罰金刑を受けたことを理由として右医師に対してされた六か月の医業停止処分は、裁量権の範囲を逸脱しこれを濫用したものとはいえない。
時期を逸しながら人工妊娠中絶の施術を求める女性にこれを断念させて出産させた新生児を内容虚偽の出生証明書を発行してその養育を希望する者にあつせんするいわゆる実子あつせんを行い、医師法違反等により罰金刑に処せられたことを理由としてされた医師に対する六か月の医業停止処分が、裁量権の範囲を逸脱しこれを濫用したものとはいえないとされた事例
医師法4条2号,医師法7条2項,行政事件訴訟法30条
判旨
医師法7条2項に基づく医師免許の取消しや医業停止処分は、厚生大臣の合理的な裁量に委ねられており、社会観念上著しく妥当を欠き裁量権を逸脱・濫用したと認められない限り違法ではない。いわゆる「実子あっせん行為」を理由とする医業停止処分は、その目的が胎児の生命保護であっても、職業倫理等への違反の程度が大きいため裁量権の範囲内である。
問題の所在(論点)
医師法7条2項に基づく医業停止処分の性質は裁量処分か。また、胎児の生命保護という動機に基づく「実子あっせん行為」を理由とする処分が、裁量権の逸脱・濫用に該当するか。
規範
医師法7条2項の規定は、医師としての品位や適格性を欠く場合に資格を剥奪し、又は医業停止により反省を促すことで業務の適正化を期する趣旨である。したがって、同条に基づく処分の要否や内容は、刑事罰の対象行為の性質、違法性の程度、動機、目的、影響に加え、当該医師の性格、処分歴、反省の程度等を諸般の事情を考慮し、医道審議会の意見を聴く前提の下で、免許権者である厚生大臣の合理的な裁量に委ねられている。その裁量権の行使は、社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を付与した目的を逸脱・濫用したと認められる場合でない限り、違法とはならない。
事件番号: 昭和60(行ツ)124 / 裁判年月日: 昭和63年6月17日 / 結論: 棄却
優生保護法一四条一項による指定を受けた医師が、虚偽の出生証明書を発行して他人の嬰児をあつせんするいわゆる実子あつせんを長年にわたり多数回行つたことが判明し、そのうちの一例につき医師法違反等の罪により罰金刑に処せられたため、右指定の撤回により当該医師の被る不利益を考慮してもなおそれを撤回すべき公益上の必要性が高いと認めら…
重要事実
産婦人科医である上告人は、中絶を希望する女性に対し、胎児の生命を守る目的で、虚偽の出生証明書を発行して第三者の実子として戸籍登録させる「実子あっせん行為」を長年(計約220件)反復継続した。学会等からの中止勧告も拒絶した結果、医師法違反(虚偽の出生証明書発行)及び公正証書原本不実記載罪等により罰金20万円の略式命令を受けた。厚生大臣はこれを理由に、医師法7条2項に基づき6か月の医業停止処分(本件処分)を行った。
あてはめ
実子あっせん行為は、出生証明書の信用を損ない、戸籍制度の秩序を乱し、子の法的地位を不安定にする。また、家裁の許可を要する養子縁組制度を潜脱し、子の福祉への配慮を欠くものであって、職業倫理に反する。上告人はその犯罪性や弊害を軽視し、公的扶助等による翻意の努力も不十分なまま安易に行為に及んでおり、その反復継続性からしても倫理違反の程度は大きい。したがって、たとえ胎児の生命保護という動機・目的があったとしても、6か月の医業停止処分が社会観念上著しく妥当を欠くとはいえない。
結論
本件処分は裁量権の範囲を逸脱・濫用したものとはいえず、適法である。
実務上の射程
行政庁に広範な専門的・政策的判断が委ねられている場合の「裁量権の逸脱・濫用」の判断枠組み(社会観念上著しく妥当を欠くか否か)を示す典型例として利用できる。特に、違反行為の動機に汲むべき事情があっても、他の諸要素(行為の反復性、制度秩序の侵害等)との比較衡量により裁量の合理性が肯定される過程を論述する際の参考になる。
事件番号: 昭和56(行ツ)119 / 裁判年月日: 昭和56年12月18日 / 結論: 棄却
医業停止処分を受けた者は、当該停止期間が経過したときは、右処分の取消によつて回復すべき法律上の利益を有しない。
事件番号: 昭和59(行ツ)276 / 裁判年月日: 昭和63年7月14日 / 結論: 破棄自判
一 裁判所が公益法人設立の不許可処分の適否を審査するに当たつては、主務官庁が一定の事実を基礎として不許可を相当とするとの結論に至つた判断過程に一応の合理性があることを否定できないのであれば、特段の事情がない限り、右不許可処分には裁量権の範囲を超え又はそれを濫用した違法があるということはできない。 二 東京都の一区内にお…
事件番号: 令和3(行ツ)73 / 裁判年月日: 令和4年2月7日 / 結論: 棄却
あん摩マツサージ指圧師,はり師,きゆう師等に関する法律19条1項は,憲法22条1項に違反しない。 (意見がある。)