一 裁判所が公益法人設立の不許可処分の適否を審査するに当たつては、主務官庁が一定の事実を基礎として不許可を相当とするとの結論に至つた判断過程に一応の合理性があることを否定できないのであれば、特段の事情がない限り、右不許可処分には裁量権の範囲を超え又はそれを濫用した違法があるということはできない。 二 東京都の一区内において、公衆衛生行政を行ううえで地区医師会の協力を得ることが不可欠の状況のもとで、既存の社団法人たる地区医師会と新たに結成された医師会とが対立反目し合つていて、話合いによる事態の収拾が困難であるなど判示の事情がある場合に、右新医師会の社団法人設立を許可することは地域医療に混乱と障害を生ずるおそれがあるとしてされた右社団法人設立の不許可処分には、一応の合理性があることを否定できず、裁量権の範囲を超え又はそれを濫用した違法があるということはできない。
一 公益法人設立の不許可処分の適否に関する裁判所の審査 二 医師会の社団法人設立の不許可処分に裁量権の範囲を超え又はそれを濫用した違法があるとはいえないとされた事例
民法34条,行政事件訴訟法30条
判旨
公益法人の設立許可(旧民法34条)は主務官庁の広汎な裁量に委ねられており、判断過程に一応の合理性が認められる限り、裁量権の逸脱・濫用(行訴法30条)として違法とはならない。
問題の所在(論点)
旧民法34条に基づく公益法人設立許可処分の性質、およびその裁量権の限界が争点となった。
規範
公益法人の設立許可基準が法令上定められていない以上、その許可は主務官庁の広汎な裁量に委ねられている。したがって、主務官庁の判断は、事実の基礎を欠くか社会観念上著しく妥当を欠くなどの事情がない限り適法である。裁判所による審査においては、主務官庁が一定の事実を基礎として不許可とした判断過程に、その立場における判断のあり方として一応の合理性があることを否定できないのであれば、特段の事情がない限り、裁量権の範囲を逸脱・濫用したものとはいえない。
事件番号: 平成14(行ツ)36 / 裁判年月日: 平成17年9月8日 / 結論: 棄却
1 病院の開設が計画されている医療圏における既存の一般病床(病院の病床で精神病床,伝染病床及び結核病床以外のもの)数が医療法(平成9年法律第125号による改正前のもの)30条の3に基づく県の医療計画所定の必要病床数を超え病院開設の必要を認めないとの理由で,同法30条の7に基づく病院の開設中止の勧告を受けた者が,これに従…
重要事実
足立区の医師の一部が既存のH医師会を脱退し、新医師会(被上告人)の設立許可を申請した。足立区では公衆衛生事業の実施に既存医師会の協力が不可欠であったが、両医師会は対立関係にあり、予防接種等の事業調整に苦慮していた。上告人(東京都知事)は、同一地域に目的を同じくする新法人が設立されれば地域医療に混乱と障害が生ずるおそれがあるとして、設立を不許可とした。
あてはめ
本件では、行政が公衆衛生事業を行うにあたり地区医師会の協力が不可欠であるという実情があった。既存のH医師会と被上告人は対立反目しており、話し合いによる収拾も困難な状況であった。現に足立区は事業実施に際し両者の調整に苦慮していた。このような事実関係のもとで、主務官庁が「地域医療に混乱と障害を生ずるおそれがある」と判断したことは、公衆衛生行政に責任を有する主務官庁の立場として一応の合理性が認められる。したがって、事実の基礎を欠く等の特段の事情も認められず、裁量権の逸脱・濫用はないと評価される。
結論
本件不許可処分は、主務官庁の広汎な裁量の範囲内にあるものとして適法であり、被上告人の請求は棄却されるべきである。
実務上の射程
行政庁に「広汎な裁量」が認められる分野(特に許可基準が不明確な旧公益法人設立や、専門的・政策的判断を要する場面)において、裁判所の審査密度を「一応の合理性」の有無に留める判断枠組みとして引用される。裁量権の逸脱・濫用を否定するための強力なロジックとして機能する。
事件番号: 昭和61(行ツ)90 / 裁判年月日: 昭和63年7月1日 / 結論: 棄却
産婦人科医院を開設している医師が、時期を逸しながら人工妊娠中絶の施術を求める女性にこれを断念させる方法として、当該女性に出産させた新生児を内容虚偽の出生証明書を発行してその養育を希望する者にあつせんするいわゆる実子あつせんを始め、二〇年間にわたり、産婦人科医師の団体等の批判、中止勧告をも無視して約二二〇件これを行い、そ…
事件番号: 平成17(行ヒ)390 / 裁判年月日: 平成19年10月19日 / 結論: 棄却
医療法(平成18年法律第84号による改正前のもの)7条に基づく病院の開設許可の取消訴訟につき,同病院の開設地の市又はその付近において医療施設を開設し医療行為をする医療法人,社会福祉法人及び医師並びに同市内の医師等の構成する医師会は,原告適格を有しない。