優生保護法一四条一項による指定を受けた医師が、虚偽の出生証明書を発行して他人の嬰児をあつせんするいわゆる実子あつせんを長年にわたり多数回行つたことが判明し、そのうちの一例につき医師法違反等の罪により罰金刑に処せられたため、右指定の撤回により当該医師の被る不利益を考慮してもなおそれを撤回すべき公益上の必要性が高いと認められる場合に、指定権限を付与されている都道府県医師会は、右指定を撤回することができる。
いわゆる実子あつせんをしたことを理由に優生保護法一四条一項による指定医師の指定を撤回することができるとされた事例
優生保護法14条1項
判旨
行政処分を撤回すべき公益上の必要性が、撤回によって当事者が被る不利益を考慮してもなお高いと認められる場合には、法令に明文の規定がなくとも、処分権限を有する行政庁は当該処分を撤回することができる。
問題の所在(論点)
行政処分の撤回について法令に直接の明文規定がない場合に、行政庁の職権による撤回が認められるか。また、その判断枠組みは如何なるものか。
規範
授益的行政処分の撤回については、法令に直接の明文規定がなくとも、処分の後に行使者の適格性を欠くに至るなど、処分を存続させることが公益に適合しない状態が生じた場合において、撤回による不利益を考慮してもなお撤回すべき公益上の必要性が高いと認められるときは、処分権限に基づきこれを行うことが許される。
重要事実
産婦人科医である上告人は、人工妊娠中絶を希望する女性に対し、出産を勧めた上で、その嬰児を他人の実子として虚偽の出生証明書を作成・交付し、戸籍に不実の記載をさせる「実子あっせん行為」を約220件繰り返した。これにより上告人は医師法違反等で罰金刑に処された。これを受け、指定医師の指定権限を持つ被告医師会は、明文の撤回規定がない中で、上告人の指定医師の指定を取り消す処分(撤回)を行った。
事件番号: 昭和61(行ツ)90 / 裁判年月日: 昭和63年7月1日 / 結論: 棄却
産婦人科医院を開設している医師が、時期を逸しながら人工妊娠中絶の施術を求める女性にこれを断念させる方法として、当該女性に出産させた新生児を内容虚偽の出生証明書を発行してその養育を希望する者にあつせんするいわゆる実子あつせんを始め、二〇年間にわたり、産婦人科医師の団体等の批判、中止勧告をも無視して約二二〇件これを行い、そ…
あてはめ
上告人の実子あっせん行為は、出生証明書の信用毀損、戸籍秩序の混乱、子の法的地位の不安定化、養子縁組制度の潜脱、近親婚の危険、子の福祉の軽視という多大な弊害を伴い、医師の職業倫理に著しく反する。この事実に鑑みれば、上告人は指定医師としての適格性を欠き、指定を存続させることは公益に適合しない。上告人が被る不利益を考慮しても、法秩序遵守の確保という公益上の必要性が著しく高いといえるため、明文規定がなくとも撤回は適法である。
結論
本件取消処分(撤回)は適法であり、それと同じ理由による再申請の却下処分も正当である。
実務上の射程
授益的処分の撤回に関するリーディングケースである。明文規定がない場合でも「公益上の必要性」と「相手方の不利益」を比較衡量し、公益が優越する場合には撤回が可能であるという法理を示した。答案上は、職権取消し(成立時の瑕疵)と区別し、事後的状況変化に基づく撤回の場面で活用する。
事件番号: 昭和30(あ)522 / 裁判年月日: 昭和33年7月11日 / 結論: 棄却
一 優生保護法(昭和二七年法律第一四一号により改正されたもの)にいう指定医師が同法第一四条第一項四号に該当する者に対し、同条第一項本文の規定に従つて人工妊娠中絶を行つた場合には、刑法第二一四条、第二一二条の堕胎罪は成立しない。 二 最高裁判所、大審院または高等裁判所の判例がない場合、地方裁判所の判例を援用して判例の違反…