就業規則に退職金は支給時の退職金協定によると定められている場合、右就業規則を補充するものとして所轄労働基準監督署長に届け出られた退職金協定の支給基準は、就業規則の一部となつているものであつて、退職金協定が有効期間の満了により失効しても当然には効力を失わず、退職金協定の失効後に退職し適用すべき協定のない労働者については、右支給基準により退職金額を確定すべきである。
就業規則に退職金は支給時の退職金協定によると定められている場合において退職金協定の失効後に退職し適用すべき協定のない労働者の退職金額が右就業規則を補充するものとして届け出られた退職金協定の支給基準により確定すべきものとされた事例
労働基準法89条1項(昭和62年法律第99号による改正前のもの),労働基準法93条
判旨
労働協約が失効しても、その支給基準が就業規則に取り入れられている場合、新たな規則への変更がない限り、失効した基準が労働契約の内容を補充する。また、既に発生した具体的な退職金請求権を、事後に締結された労働協約の遡及適用や就業規則の変更によって処分・変更することは許されない。
問題の所在(論点)
労働協約の失効後に生じた労働条件の空白を、就業規則に準用された旧協定の基準で補充できるか。また、退職後に締結された労働協約や変更された就業規則を、既に発生した退職金請求権に遡及適用できるか。
規範
1. 就業規則は労働条件を画一的に定めるものであり、労働協約が失効して空白となった労働契約の内容を補充する機能を有する。そのため、労働協約の内容が就業規則に取り入れられている場合、当該協約が失効しても、就業規則が変更されない限りその基準が適用される。 2. 既に発生した具体的権利としての退職金請求権を、事後に締結された労働協約の遡及適用(労組法17条の拡張適用を含む)や就業規則の変更により、事後的に処分・変更することはできない。
重要事実
銀行員である上告人は、退職金を「支給時の退職金協定による」との約定で勤務していた。銀行は特定の労働組合(従業員組合)との退職金協定を就業規則に添付して届け出ており、上告人が所属する別の組合(外銀労)とも同内容の協定を締結していた。その後、全組合との協定が失効し、新たな協定がないまま上告人が退職した。退職後、銀行は従業員組合とのみ新協定を締結し、これを上告人に遡及適用して、旧基準より低額な退職金を支払おうとした。
あてはめ
本件では、失効した旧協定の支給基準が就業規則の一部となっており、上告人の退職時に就業規則は変更されていなかったため、合理的な解釈として旧基準が適用される。また、上告人の退職により退職金請求権は具体的な権利として確定している。銀行は労組法17条に基づく新協約の拡張適用等を主張するが、既に発生した具体的権利を事後の協約等で一方的に剥奪・変更することは法的に許されない。
結論
上告人の退職金請求権は旧基準により確定しており、退職後に締結された新協約や就業規則変更による遡及的な減額は認められない。
実務上の射程
労働協約失効後の「余後効」に似た機能を就業規則の補充性によって認めた点、および「既得権(具体的権利)」の事後的変更を否定した点で重要。答案では、労働条件の不利益変更の限界や、退職金請求権の法的性質を論じる際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和27(オ)329 / 裁判年月日: 昭和29年9月10日 / 結論: 棄却
会社とその従業員をもつて組織する労働組合との間に成立した退職金に関する協約上の約定は商行為であつて、右約定に基く退職金債権はこれを商事債権と認むべきである。
事件番号: 昭和56(オ)1173 / 裁判年月日: 昭和58年7月15日 / 結論: 棄却
就業規則たる退職金支給規定の一方的変更が、従業員に対し変更実施日以降の就労期間は退職金算定の基礎勤続年数に算入されなくなるという不利益を課するものであるにもかかわらず、その代償となる労働条件が何ら提供されず、また、右不利益を是認させるような特別の事情もないときは、右変更は合理的なものということができず、従業員に対し効力…