農地の譲受人が、当該各譲渡について必要な農地調整法(昭和二二年法律第二四〇号による改正前のもの)四条一項所定の地方長官の許可又は農地法(昭和四五年法律第七八号による改正前のもの又は同年法律第五五号による改正前のもの)三条所定の知事の許可を受けていないときは、特段の事情のない限り、右農地を占有するに当たつてこれを自己の所有と信じても、無過失であつたとはいえない。
農地の取得時効につき無過失であつたとはいえないとされた事例
民法162条2項,農地調整法(昭和22年法律第240号による改正前のもの)4条1項,農地調整法(昭和22年法律第240号による改正前のもの)4条3項,農地法(昭和45年法律第78号又は同第55号による改正前のもの)3条1項,農地法(昭和45年法律第78号又は同第55号による改正前のもの)3条4項
判旨
農地の譲渡には都道府県知事等の許可が必要であり、通常の注意義務を尽くせば許可なく所有権を取得できないと知り得る。そのため、許可なく農地の譲受人が所有権を取得したと信じても、許可があるとの誤信に特段の事情がない限り、占有開始の過失が否定されないため短期取得時効は成立しない。
問題の所在(論点)
農地法上の許可が必要な土地の譲受人が、許可を得ていないにもかかわらず所有権を取得したと信じて占有を開始した場合、民法162条2項の「無過失」が認められるか。
規範
農地の譲受人が、知事等の許可がないにもかかわらず所有権を取得したと信じた場合、占有開始時に過失がない(民法162条2項)といえるためには、許可があったと信じるにつき「特段の事情」を要する。具体的には、許可に瑕疵があって無効であるがその瑕疵につき善意であった等の事情がない限り、通常の注意義務を尽くせば許可の要否を認識し得るため、無過失とは認められない。
重要事実
上告人の父が死亡し家督相続したが、その後、実家を継いだ次男(被上告人)や母との間で財産分割の合意がなされた。この合意等に基づき、被上告人は農地を含む土地の贈与を受け、長年耕作・占有を継続した。しかし、これらの贈与について農地法(又は改正前農地調整法)上の知事の許可は受けていなかった。被上告人は、10年の短期取得時効(162条2項)及び20年の長期取得時効(同1項)を援用し、所有権移転登記を求めた。
あてはめ
農地法3条等は農地の権利移転に知事の許可を要する旨を定めており、譲受人は通常の注意を払えば許可がなければ所有権を取得できないことを知り得る。本件の被上告人は、兄(上告人)からの贈与や母からの死因贈与に基づき占有を開始したが、いずれも知事の許可は得られていなかった。被上告人は、許可に代わる特段の事情(許可の無効を知らなかった等)を主張・立証していない。したがって、所有権を取得したと信じたとしても過失がないとはいえず、10年の短期取得時効は成立しない。もっとも、占有開始から20年が経過した土地については、所有の意思をもって平穏公然に占有した事実に変わりはないため、長期取得時効が成立する。
結論
許可のない農地譲受人について、特段の事情がない限り占有開始時の無過失は否定され、10年の短期取得時効は成立しない。ただし、20年の占有継続が認められる範囲で長期取得時効の成立が認められる。
実務上の射程
農地という公法上の規制がある物件の時効取得において、「無過失」のハードルを上げた判例である。答案上は、まず占有開始の権原(贈与等)を指摘しつつ、農地法の許可の欠如を理由に無過失を否定し、20年の長期取得時効の成否を検討する流れが一般的である。
事件番号: 昭和57(オ)548 / 裁判年月日: 昭和58年3月24日 / 結論: 破棄差戻
民法一八六条一項の所有の意思の推定は、占有者がその性質上所有の意思のないものとされる権原に基づき占有を取得した事実が証明されるか、又は占有者が占有中、真の所有者であれば通常はとらない態度を示し、若しくは所有者であれば当然とるべき行動に出なかつたなど、外形的客観的にみて占有者が他人の所有権を排斥して占有する意思を有してい…
事件番号: 昭和39(オ)720 / 裁判年月日: 昭和42年6月20日 / 結論: 棄却
占有の開始は相続によるもので取引によるものではなくその他判示事実関係のもとにおいては土地登記簿を調査しなかつたことをもつて占有のはじめ過失があつたとすることはできない。(本件は、昭三七、五、一八、二小法廷判決集一六巻五号一〇七三頁の再上告事件である。)
事件番号: 昭和50(オ)1051 / 裁判年月日: 昭和51年5月25日 / 結論: 棄却
家督相続をした長男が、家庭裁判所における調停により、母に対しその老後の生活保障と妹らの扶養及び婚姻費用等に充てる目的で農地を贈与して引渡を終わり、母が、二十数年これを耕作し、妹らの扶養及び婚姻等の諸費用を負担したなど判示の事実関係のもとにおいて、母から農地法三条の許可申請に協力を求められた右長男がその許可申請協力請求権…
事件番号: 平成7(オ)228 / 裁判年月日: 平成8年11月12日 / 結論: 破棄自判
一 他主占有者の相続人が独自の占有に基づく取得時効の成立を主張する場合には、相続人において、その事実的支配が外形的客観的にみて独自の所有の意思に基づくものと解される事情を証明すべきである。 二 甲が所有しその名義で登記されている土地建物について、甲の子である乙が甲から管理をゆだねられて占有していたところ、乙の死亡後、そ…