土地賃借権の譲渡契約において、譲渡について地主の承諾が得られなかつたときは、譲渡契約当事者間で協議し、円満に取引を完了する旨の特約がある場合に、譲渡の効力発生について地主の承諾を停止条件とする旨を直接定めた書面上の合意がなく、土地上の建物の売買代金を含む譲渡代金の四割相当の手付金が譲渡契約時に支払われ、譲受人が契約締結のころ右建物に入居してそこに造作工事を施したなど、判示の事情のもとにおいては、右譲渡契約は、その締結と同時に土地賃借権の譲渡の効力が発生するとして締結されたと解するのが相当である。
土地賃借権譲渡契約につきその譲渡の効力が契約締結時に発生するとして締結されたと解された事例
民法1編4章1節,民法127条1項,民法612条
判旨
借地上の建物売買において、地主の承諾を停止条件とする旨の明示的な合意がなく、代金の相当額が支払われ買主が入居・造作を行っている等の事情がある場合には、特段の事情のない限り、契約締結と同時に建物所有権および賃借権の移転効力が発生したと解するのが相当である。
問題の所在(論点)
借地上の建物の売買において、地主の承諾が得られなかった場合に「当事者間で協議し円満に解決する」旨の特約がある場合、賃借権の譲渡効力の発生に地主の承諾を停止条件とする合意があったといえるか。ひいては無断譲渡による解除の成否が問題となる。
規範
建物売買に伴う借地権譲渡について、賃貸人の承諾を停止条件とする特約の存否は、契約書中の文言のみならず、売買代金の支払状況、建物の引渡しおよび占有の状態、譲受人による造作の実施、契約後の当事者の動向等の諸事情を総合考慮して解釈すべきである。特段の事情がない限り、多額の手付金支払や即時の引渡し・入居が行われていれば、契約締結時に権利移転の効力が発生したものと解される。
重要事実
事件番号: 昭和46(オ)659 / 裁判年月日: 昭和47年7月18日 / 結論: 破棄差戻
借地上の建物の所有権が第三者に移転する場合には、任意譲渡であると競売等国家機関の介入による場合であるとを問わず、特別の事情がないかぎり、その敷地の借地権は、建物の所有権とともに当然に第三者に移転するものと解すべく、右特別の事情の存することの主張立証責任はこれを自己の利益に援用する者の側にあるものというべきである。
賃借人B1は、地主(上告人)の承諾を得ることを約して、亡Dに対し本件建物を750万円で売却した。Dは手付金として代金の4割にあたる300万円を即納し、契約直後から家族と共に入居して造作工事も施した。B1は地主に承諾を求めたが拒絶された。その後、Dの長男B2も入居し、B側は長期間占有を継続したが、地主はこれを無断譲渡(民法612条2項)にあたるとして賃貸借契約の解除を主張した。
あてはめ
本件では、①契約書に停止条件とする直接の条項がないこと、②代金の4割もの高額な手付金が支払われていること、③契約直後に買主が入居し造作工事を行っていることは、契約締結と同時に権利移転の効力が発生したと解さなければ矛盾する。また、④「協議により円満に解決する」との特約は契約解消時の処理を定めたに過ぎず、⑤承諾拒絶後も長期間占有を継続している。これらの事実に照らせば、本件売買には停止条件が付されていたとはいえず、契約締結時に賃借権の譲渡が効力を生じたと評価される。
結論
本件建物の売買契約締結と同時に賃借権譲渡の効力が発生したと解すべきであり、賃貸人の承諾がない以上、無断譲渡を理由とする賃貸借契約の解除は有効となり得る。
実務上の射程
借地権譲渡の事案で「承諾を停止条件としていたから譲渡(民法612条1項)自体が未発生である」との抗弁を封じる際に使用する。代金支払や引渡しの先行という事実から、契約解釈として停止条件を否定する論法として有用である。
事件番号: 昭和46(オ)846 / 裁判年月日: 昭和47年6月23日 / 結論: 棄却
土地の賃借人およびその経営する会社が他に営業の場所を有するに至つたときまたは爾後の営業の準備に通常要する期間を経過したときをもつて明渡期限と定めて、土地賃貸借が合意解約された場合において、賃貸人に対し賃借人がその所有の他の土地建物を買い受けてもらう必要から、判示のような経過で解約を承諾したものであるときは、右合意につき…
事件番号: 昭和44(オ)1017 / 裁判年月日: 昭和47年2月10日 / 結論: 棄却
土地賃貸借契約成立の事情として、賃貸人は、当初、賃借人の借地申入れに対し、他人に土地を貸すときは回収が困難になるとして賃貸することに反対していたが、賃借人や仲介に入つた知人から、一時しのぎに僅かな土地でもよいし、何時でも取り払える仮小屋の建物でよいから」と執拗に懇請され、やむなくバラツク建物に限り建築を許す趣旨で、約六…
事件番号: 昭和33(オ)518 / 裁判年月日: 昭和35年9月20日 / 結論: 棄却
一 借地法第一〇条の建物買取請求権が行使された場合、土地賃貸人は、特段の事情がないかぎり、右買取請求権行使以前の期間につき賃料請求権を失うものではないけれども、これがため右期間中は建物取得者の敷地不法占有により賃料相当の損害を生じないとはいい得ない。 二 借地法第一〇条の建物買取請求権が行使された後、建物取得者は買取代…
事件番号: 昭和43(オ)52 / 裁判年月日: 昭和43年11月19日 / 結論: 棄却
一時使用の目的で賃借した土地上に建築された仮設建物を買い受けるとともに賃貸人の承諾なしに賃借権の譲渡を受けた者との間で、賃貸人が土地の一部を右譲受人に売却し、他を明け渡す旨の約束ができたが、譲受人が代金を払わないため右売買契約が解除され、そのため右土地の明渡について話合がされ、結局一〇年の賃貸借契約が締結されるに至つた…