売主の責に帰すべき履行不能により不動産売買契約が解除された場合の損害賠償額の予定に関する約定は、それが履行不能による賠償額算定の争いを避けるためにされたものであり、解除の有無によつて買主の請求しうる額に差異がない等判示の事情のもとにおいては、買主が契約を解除することなく本来の給付に代わる填補賠償を請求する場合にも適用されると解するのが相当である。
不動産売買契約が解除された場合の損害賠償額の予定に関する約定の解釈
民法415条,民法420条,民法543条,民法545条
判旨
売買契約において解除時の損害賠償額が予定されている場合、契約を解除せずに本来の給付に代わる填補賠償を請求する際にも、特段の事情がない限りその予定額の定めが適用される。
問題の所在(論点)
債務不履行による契約解除時の賠償額を予定する条項がある場合、契約を解除せずに填補賠償を請求する場面においても当該条項が適用されるか。
規範
損害賠償額の予定の趣旨が、債務不履行に基づく賠償額算定の紛争を避ける点にあること、および、解除を伴う賠償請求と解除を伴わない填補賠償請求との間で実質的な損害額に差異が生じないことに鑑みれば、解除を前提とする賠償額の予定に関する約定は、契約を解除することなく填補賠償を請求する場合にも適用または類推適用されると解するのが相当である。
重要事実
不動産会社である上告人とその従業員であった被上告人は、マンション一戸の売買契約を締結した。同契約には、一方の違背により契約を解除する場合、売主の不履行時は受領済金員に加え代金の1割を違約金として支払う旨の賠償額の予定(本件約定)があった。その後、被上告人が退職したため、上告人は本件物件を第三者に高値で転売し、所有権移転登記を了した。これにより上告人の債務は履行不能となったが、被上告人は契約を解除せず、転売価格と約定代金の差額(550万円)等の填補賠償を請求した。
あてはめ
本件約定は売主の債務不履行による賠償額算定の争いを避ける趣旨である。また、解除して賠償請求する場合(予定賠償額+原状回復)と、解除せずに填補賠償を請求する場合(時価相当額ー残代金)とでは、買主の負担が金銭債務である本件においては、算定手法が損益相殺か相殺の法理かの違いにすぎず、本来請求しうる額に差異はない。したがって、解除を前提とした本件約定の趣旨には、解除を伴わない填補賠償請求の場合も含まれると解される。
結論
本件約定が適用されるため、被上告人が請求できるのは実損害額ではなく、既払手付金に予定された違約金(代金の1割)を加えた228万円の限度にとどまる。
実務上の射程
契約書の文言上「解除したときは」と限定されていても、実質的に填補賠償と同視できる場面では、賠償額の予定の効力が及ぶことを示す射程の広い判例である。答案上は、当事者の合理的意思解釈として本判例の論理を用いるべきである。
事件番号: 昭和37(オ)11 / 裁判年月日: 昭和37年12月26日 / 結論: 棄却
一 売買の目的物である立木を売主が買主以外の者に売却して伐採搬出されたときは、そのときに買主に対する債務不履行が成立する。 二 売主が債務不履行のときは内入金の倍額を買主に支払い、買主の債務不履行のときは内入金を放棄するとの約定は、債務不履行の場合に当事者間の契約関係を清算しようとするための損害賠償を予定したものと解す…
事件番号: 昭和27(オ)105 / 裁判年月日: 昭和29年5月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約が解除された場合における債務不履行を理由とする損害賠償額は、目的物の引渡しがなされていれば買主が享受できたはずの解除当時の時価と代金との差額を含む。 第1 事案の概要:被上告人(買主)は、上告人(売主)から製麺機械を買い受ける契約を締結したが、上告人の債務不履行により当該契約を解除した。本…