一 所得税法(昭和四七年法律第三一号による改正前のもの)中の給与所得に係る課税関係規定につき、その課税最低限がいわゆる総評理論生計費を下まわることを根拠に給与所得者の「健康で文化的な最低限度の生活」を侵害するという主張は、立法府の裁量の逸脱・濫用と見ざるをえないゆえんを具体的に主張しているものではなく、失当である。 二 国税通則法及び所得税法(昭和四七年法律第三一号による改正前のもの)に定める給与所得に係る源泉徴収制度は、憲法一四条一項に違反しない。
一 所得税法(昭和四七年法律第三一号による改正前のもの)中の給与所得に係る課税関係規定が給与所得者の「健康で文化的な最低限度の生活」を侵害するという主張が失当であるとされた事例 二 国税通則法及び所得税法(昭和四七年法律第三一号による改正前のもの)に定める給与所得に係る源泉徴収制度と憲法一四条一項
所得税法(昭和47年法律第31号による改正前のもの)2編2章,所得税法(昭和47年法律第31号による改正前のもの)4編2章,憲法14条1項,憲法25条,国税通則法15条,国税通則法36条
判旨
憲法25条の具体化は立法府の広い裁量に委ねられており、所得税法の課税規定が著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるを得ない場合を除き、裁判所の審査適格を欠く。本件の課税最低限が「健康で文化的な最低限度の生活」を侵害するものとはいえず、同条に違反しない。
問題の所在(論点)
所得税法における給与所得に係る課税規定(課税最低限の設定等)が、生存権を保障する憲法25条に違反するか。また、その際の司法審査の基準はどうあるべきか。
規範
憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」は抽象的・相対的な概念であり、その具体化には国の財政事情の考慮や高度に専門技術的な政策判断を要する。したがって、どのような立法措置を講ずるかは立法府の広い裁量に委ねられる。裁判所は、当該措置が著しく合理性を欠き、明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるを得ない場合を除き、その当否を審査判断するのに適しない。
重要事実
上告人(給与所得者)らは、昭和46年当時の所得税法における給与所得控除額が低額にすぎること、および課税最低限が労働組合(総評)の策定した理論生計費を下回っていることを理由に、憲法25条(生存権)や憲法14条1項(平等原則)等に違反すると主張し、課税処分の取消し等を求めて争った。
あてはめ
上告人は、課税最低限が総評理論生計費を下回ることを違憲の根拠とするが、同生計費は望ましい生活水準等の目標に過ぎず、生存権保障の絶対的基準とはならない。また、具体的な課税規定が著しく合理性を欠き、明らかに裁量の逸脱・濫用であると認めるべき事情も主張・立証されていない。昭和46年当時の経済状況や財政事情に照らせば、本件の課税規定が生存権を侵害しているとは認められない。
結論
所得税法中の給与所得に係る課税規定は、立法府の広範な裁量の範囲内にあるものとして、憲法25条に違反しない。
実務上の射程
生存権の具体化に関する「立法裁量論」を確立した堀木訴訟大法廷判決の法理を、租税法(課税最低限)の領域において再確認したもの。司法試験においては、生存権の審査基準(明白性の基準)を定立する際の引用判例として、また租税法の領域における立法府の政策的判断を尊重する文脈で活用すべきである。
事件番号: 昭和56(行ツ)160 / 裁判年月日: 昭和60年12月17日 / 結論: 棄却
所得税法(昭和五六年法律第一一号による改正前のもの)二条一項三四号及びこれが引用する限りでの同項三三号は、憲法一四条一項に違反しない。
事件番号: 平成4(行ツ)127 / 裁判年月日: 平成5年2月18日 / 結論: 棄却
個人の国又は地方公共団体に対する寄付金に関する所得控除について限度額を設けている所得税法七八条一項、二項一号の規定は、法人税法三七条三項一号が法人に関する同様の寄付金についてその全額の損金算入を認めているからといって、憲法一四条一項、八四条に違反するものではない。
事件番号: 昭和37(オ)1259 / 裁判年月日: 昭和38年10月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】課税処分における所得金額の推計に関し、被上告人が採用した所得標準率の作成方法が適正である限り、これを用いて農業所得を算出することは、推計の手法として不相当とはいえず適法である。 第1 事案の概要:上告人は農業所得等の金額算出において、被上告人が採用した所得標準率に不服を申し立てた。具体的には、麦の…