市営地下鉄の列車内における商業宣伝放送は、業務放送の後に「次は○○前です。」又は「○○へお越しの方は次でお降りください。」という企業への降車駅案内を兼ね、一駅一回五秒を基準とする方式で行われ、一般乗客にそれ程の嫌悪感を与えるものではないなど原判示の事情の下においては、これを違法ということはできない。 (補足意見がある。)
市営地下鉄の列車内における商業宣伝放送に違法性がないとされた事例
民法415条,民法709条,民法710条
判旨
地下鉄車内での商業宣伝放送は、乗客が「とらわれの聞き手」となる側面があるものの、放送の内容が控えめであり、社会的に許容される範囲内であれば、個人の静穏を保持する利益を侵害する違法なものとはいえない。
問題の所在(論点)
地下鉄車内という閉鎖空間における商業放送が、乗客の「聞きたくない音を聞かない自由(プライバシーないし人格的利益)」を侵害し、不法行為法上の違法性を有するか。
規範
見たくないものを見ず、聞きたくないものを聞かない自由(心の静穏を乱されない利益)は、憲法13条の幸福追求権に含まれる人格的利益として法的保護の対象となる。もっとも、公共の場所においてはその保護は限定的であり、他者の表現の自由や経済的自由等との相関関係において、受忍限度を基準に違法性が判断される。特に「とらわれの聞き手」となる状況下では、侵害行為の態様・内容を考慮し、受忍すべき範囲を越えるか否かを検討すべきである。
重要事実
大阪市営地下鉄(当時)を運行する被上告人が、走行中の列車内において商業宣伝放送を実施した。これに対し、乗客である上告人が、聞きたくない放送を強制的に聞かされることで精神的苦痛を受けたとして、不法行為(民法709条)等に基づき、放送の中止と損害賠償を求めて提訴した。一審・二審ともに請求が棄却されたため、上告に至った。
あてはめ
地下鉄の乗客は、目的地到達のために当該交通機関を利用せざるを得ない「とらわれの聞き手」の状態にあり、放送から逃れることが困難である。しかし、本件の放送は、試験放送時とは異なり、内容が駅周辺の企業広告に限定され、控えめな基準で行われていた。このような態様においては、公共の場所である車内におけるプライバシーの利益は一定の制約を免れず、一般人の許容する程度を超えたものとは認められない。したがって、上告人の受忍の範囲を越えた侵害があるとはいえない。
結論
本件商業宣伝放送を違法ということはできず、被上告人は不法行為及び債務不履行の各責任を負わない。
実務上の射程
人格的利益と表現・経済的自由の調整に関するリーディングケースである。特に「とらわれの聞き手」の法理は、公共空間での強制的な情報伝達(デジタルサイネージや公共広告等)の違法性判断において、受忍限度を画定するための重要な考慮要素として答案上活用できる。
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