農地法五条所定の許可がされた農地上に建物が築造されることにより右農地に隣接する農地の日照、通風等が阻害されて農作物の収穫が激減し、その農地としての効用が失われるおそれがあるとしても、右隣接農地の所有者は、右許可の取消しを求める原告適格を有しない。
農地法五条所定の許可がされた農地に隣接する農地の所有者が当該許可の取消しを求める原告適格を有しないとされた事例
行政事件訴訟法9条,農地法5条
判旨
農地法5条に基づく転用許可の取消しを求める原告適格について、転用後の建物築造により隣接農地の日照・通風が阻害されるおそれがあっても、それは許可自体による直接の法的効果ではなく事実上の影響にすぎないため、法律上の利益を有するとは認められない。
問題の所在(論点)
農地法5条に基づく農地転用許可がなされた場合に、隣接する農地の所有者は、当該許可によって生じる日照・通風の阻害等の不利益を理由として、当該許可の取消しを求めるにつき「法律上の利益」(行政事件訴訟法9条1項)を有するか。
規範
取消訴訟の原告適格(行政事件訴訟法9条1項)における「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう。処分の直接の根拠法規が、公益のみならず個人の個別的利益をも保護する趣旨を含むか否かにより判断されるべきであるが、単なる事実上の影響を受けるにすぎない者は含まれない。
重要事実
被上告人は、隣接する畑地の所有者である。本件農地について農地法5条所定の転用許可がなされたところ、被上告人は、当該許可に基づき本件畑地上に建物が築造されると、自己の所有する隣接畑地の日照や通風が阻害され、農作物の収穫が激減して農地としての効用が失われるおそれがあるとして、当該許可の取消しを求めて提訴した。
事件番号: 昭和33(オ)406 / 裁判年月日: 昭和34年1月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】農地転用許可は、住居の安定等の諸利益を考慮した上で裁量権の逸脱がない限り適法であり、既に事実上転用された農地に対する許可も、将来に向けた違法状態の消滅という効果を有する以上、不能の行政処分として無効になることはない。 第1 事案の概要:上告人らが受けた農地法に基づく転用許可処分に対し、当該土地が既…
あてはめ
被上告人が主張する不利益は、本件許可によって本件畑地上に建物が築造されることに伴う日照・通風の阻害である。しかし、これは転用許可そのものによって直接もたらされる法律上の効果ではなく、転用後に特定の建物が築造されることによって生じる「事実上の影響」にすぎない。農地法5条の許可制度が、近隣農地所有者の日照・通風等の具体的利益を個別的に直接保護する趣旨を含むか否かの一般論を検討するまでもなく、本件のような事実上の不利益を被る者は、法律上の利益を有する者には当たらない。
結論
被上告人は本件許可の取消しを求める原告適格を欠き、本件訴えは不適法である。
実務上の射程
本判決は、処分の効果と事実上の波及効果を厳格に区別する姿勢を示している。現代の原告適格論(小田急高架訴訟等)では、根拠法規だけでなく関連法規の趣旨も考慮されるが、本判決の「処分自体の法的効果か、付随する事実上の影響か」という視点は、現在でも反射的利益と法律上保護された利益を峻別する際の基礎的な論理として機能する。
事件番号: 昭和55(行ツ)20 / 裁判年月日: 昭和57年7月15日 / 結論: 棄却
買収農地が売り渡されたのちに農地法四条一項五号に規定する市街化区域内にある農地となつた場合には、右農地につき小作農として売渡しを受けるべき地位にあると主張する者は、右売渡処分の取消しを求める法律上の利益を有しない。
事件番号: 昭和40(行ツ)17 / 裁判年月日: 昭和41年12月23日 / 結論: 棄却
農地の所有者から賃借権等の設定を受け現に当該農地を耕作している者であつても、右賃借権等の設定について農業委員会の許可を受けていない以上、当該農地の所有権移転につき知事が第三者に与えた許可処分の無効確認を求める原告適格を有しない。
事件番号: 昭和46(行ツ)46 / 裁判年月日: 昭和47年12月12日 / 結論: 棄却
一、自作農創設特別措置法に基づき所有土地を買収された者が買収計画または買収処分に対する取消訴訟を提起しても、右土地につき売渡の相手方のために進行する取得時効は中断されない。 二、自作農創設特別措置法に基づき所有土地を買収された者は、右土地の売渡の相手方を被告として、買収計画または買収処分の取消を条件とする原状回復の請求…
事件番号: 昭和26(オ)55 / 裁判年月日: 昭和26年9月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上告理由が民事上告事件の審判の特例に関する法律所定の事由に該当せず、かつ法令の解釈に関する重要な主張を含まない場合には、上告を棄却すべきである。 第1 事案の概要:上告人が提起した上告に対し、最高裁判所がその上告理由を検討したところ、当時の民事上告特例法に定められた上告受理の要件を満たしているか、…