一、自作農創設特別措置法に基づき所有土地を買収された者が買収計画または買収処分に対する取消訴訟を提起しても、右土地につき売渡の相手方のために進行する取得時効は中断されない。 二、自作農創設特別措置法に基づき所有土地を買収された者は、右土地の売渡の相手方を被告として、買収計画または買収処分の取消を条件とする原状回復の請求(土地の返還、所有権取得登記の抹消等の請求)の訴または右取消によつて土地所有権を回復すべき法律上の地位に関し条件付権利の確認の訴を提起する等の方法によつて、右土地につき売渡の相手方のために進行する取得時効を中断することができる。 三、自作農創設特別措置法に基づき買収土地の売渡を受けた者が右土地を時効取得したときは、被買収者が右土地の所有権の回復のみを目的として提起した買収計画取消訴訟は、その利益を失う。
一、自作農創設特別措置法による買収計画または買収処分に対する取消訴訟の提起と買収土地の取得時効の中断 二、自作農創設特別措置法による土地の被買収者が右土地の売渡の相手方に対し取得時効を中断する方法 三、自作農創設特別措置法による買収土地が売渡の相手方により時効取得された場合と右土地の所有権の回復のみを目的とする買収計画取消訴訟の利益
自作農創設特別措置法3条1項,自作農創設特別措置法16条1項,民法147条,民法148条,民法162条,民訴法226条,行政事件訴訟法9条
判旨
行政処分の取消訴訟の提起は、当該処分に係る目的物の占有者に対する取得時効を中断させる効力を有しない。また、第三者の時効完成により権利回復の可能性が消滅した場合には、当該処分の取消しを求める訴えの利益は失われる。
問題の所在(論点)
土地買収計画の取消訴訟の提起により、売渡先(第三者)の取得時効は中断するか。また、訴訟係属中に第三者の取得時効が完成した場合、取消訴訟の訴えの利益は失われるか。
規範
1. 取得時効は、目的物件の継続的な占有という事実状態を権利関係に高める制度であるため、占有取得の原因いかんにかかわらず進行し得る。 2. 取消訴訟は行政庁を被告とするものであり、占有者(第三者)を被告とするものではないから、民法上の時効中断(裁判上の請求)の効力は及ばない。 3. 取消判決を得ても権利回復が不可能となった場合には、特段の事情がない限り、取消しを求める訴えの利益(行政事件訴訟法9条)を喪失する。
事件番号: 昭和42(行ツ)11 / 裁判年月日: 昭和42年9月14日 / 結論: 棄却
職権調査事項に関する当事者の主張については、民訴法第一三九条の適用がない。
重要事実
国が自作農創設特別措置法に基づき上告人から土地を買収し、補助参加人に売り渡した。上告人は買収計画の取消訴訟を提起したが、その係属中に補助参加人が10年間の自主占有を継続し、取得時効が完成した。補助参加人は善意無過失で占有を開始したと認定されている。被告側は、時効完成により上告人は所有権を回復し得ないため、訴えの利益がないと主張した。
あてはめ
まず、取消訴訟は処分庁を被告とするもので、占有者である補助参加人を被告とするものではないから、時効中断の効力は補助参加人には及ばない。また、上告人は占有者に対し、条件付権利の確認の訴え等により時効中断を図ることも可能であった。次に、補助参加人は売渡処分を信じて占有を開始しており、瑕疵の有無まで調査する義務はないから善意無過失といえる。したがって、10年の経過により時効が完成し、補助参加人が確定的に所有権を取得した以上、上告人が取消判決を得ても土地所有権を回復する余地はなく、他の権利利益の回復も主張されていないため、訴えの利益は存しない。
結論
取消訴訟は、目的物について第三者の取得時効が完成し、原告の権利回復が不可能となった場合には、訴えの利益を欠き却下される。本件上告は棄却された。
実務上の射程
行政処分の効力と私法上の権利関係の交錯を示す重要判例。答案では「訴えの利益」の消滅事由(権利回復の不可能)として本理屈を用いる。特に、係属中に時効が完成し得る点や、第三者に対する民法上の訴えを別途提起すべきとする結論が実務上の指針となる。
事件番号: 昭和45(行ツ)23 / 裁判年月日: 昭和49年12月23日 / 結論: 棄却
一、自作農創設特別措置法による買収土地を売渡の相手方が一〇年間所有の意思をもつて、平穏、公然に占有し、その占有の始め、善意、無過失であつた場合において、買収に関する処分の取消判決が確定したときは、売渡の相手方は、民法一六二条二項により右土地の所有権を時効取得する。 二、自作農創設特別措置法による買収土地を売渡の相手方が…
事件番号: 昭和37(オ)1403 / 裁判年月日: 昭和39年10月20日 / 結論: 破棄自判
自作農創設特別措置法により買収農地の売渡を受けた者が当該農地の所有権を時効取得したときは、右農地の被買収者は、その買収処分の無効確認を求める訴の利益を有しない。
事件番号: 昭和25(オ)10 / 裁判年月日: 昭和26年11月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政処分の取消しを求める訴えが、出訴期間を経過した後に提起された不適法なものである場合、当該処分に無効原因があるとの主張が含まれていても、裁判所は処分の当否について実体的な判断を加える必要はない。 第1 事案の概要:上告人所有の農地に対し、農地委員会および県知事が農地買収計画および買収処分を行った…
事件番号: 昭和26(オ)527 / 裁判年月日: 昭和28年3月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】占有者が土地の所有権を旧所有者に留保することを了解して占有を開始した場合、その占有は「所有の意思」を欠く他主占有であり、民法162条に基づく取得時効は成立しない。 第1 事案の概要:Dは本件土地をEに使用させる際、その所有権は引き続きDに保留しておくこととし、Eもこれを了解した上で本件土地の占有を…