民法一六二条所定の取得時効の要件が具備された場合、当該不動産の占有者は、時効期間の経過後右不動産の占有を喪失しても、これが時効利益の放棄に該当しない限り、右時効の援用権者として、これを援用しうるものというべきである。
取得時効の要件が具備されたのち当該不動産の占有者がその占有を喪失した場合と時効援用の可否
民法162条,民法164条
判旨
不動産の占有者が時効期間経過後に占有を喪失しても、時効利益の放棄に該当しない限り時効を援用でき、また他主占有から自主占有への変更原因が複数ある場合はこれを選択的に主張できる。
問題の所在(論点)
1. 時効完成後の占有喪失は、時効の援用権に影響を及ぼすか。 2. 他主占有を自主占有に変更させる原因が複数ある場合、それらを選択的に主張できるか。
規範
1. 不動産の取得時効(民法162条)の要件を具備した占有者は、時効期間経過後に当該不動産の占有を喪失した場合であっても、それが時効利益の放棄(民法146条)と認められない限り、依然として時効の援用権を有する。 2. 他主占有を自主占有に変更させる性質の事由(民法185条)が複数存在する場合、援用権者はそれらの事由を選択的または予備的に主張することができる。
重要事実
亡Dおよび亡Eは、本件係争地の各部分を占有していた。その占有の過程において、他主占有から自主占有へと性質が変わる契機となる「本件調停」が成立した。Dらは時効期間満了後に当該土地の占有を喪失したが、Dの相続人である被上告人らは、本件調停を新たな権原として時効取得を主張し、その援用権を行使した。これに対し上告人側は、占有喪失後の援用権の有無や、変更原因の主張の可否を争い上告した。
事件番号: 昭和44(オ)1270 / 裁判年月日: 昭和46年11月30日 / 結論: 棄却
相続人が、被相続人の死亡により、相続財産の占有を承継したばかりでなく、新たに相続財産を事実上支配することによつて占有を開始し、その占有に所有の意思があるとみられる場合においては、被相続人の占有が所有の意思のないものであつたときでも、相続人は民法一八五条にいう「新権原」により所有の意思をもつて占有を始めたものというべきで…
あてはめ
1. 亡Dらが民法162条2項の時効期間を満了した時点で、時効完成による権利取得の法的地位(援用権)は確定的に発生している。その後の占有喪失は、特段の事情がない限り、既に生じた援用権を消滅させるものではない。本件において占有喪失が時効利益の放棄にあたるとはいえないため、被上告人らは依然として援用権を行使できる。 2. 自主占有への転換原因については、実態に即して適切な法的主張を認めるべきであり、複数の原因がある場合にその選択的主張を妨げる理由はない。原審が「本件調停」により自主占有への変更を認めた判断は正当である。
結論
時効完成後の占有喪失は時効利益の放棄でない限り援用を妨げず、自主占有への変更原因の選択的主張も認められる。したがって、時効取得を認めた原判決は正当であり、上告を棄却する。
実務上の射程
時効完成後の占有喪失が「占有継続」という要件に遡及的に影響しないことを明確にした。答案上では、時効完成後に不法占拠者や譲受人によって占有を奪われたケース等において、なお援用が可能であることを論証する際に活用できる。また、185条の「新たな権原」が複数ある事案での主張構成の柔軟性を担保する根拠となる。
事件番号: 昭和57(オ)578 / 裁判年月日: 昭和60年11月26日 / 結論: 棄却
仮登記担保権の設定された不動産の第三取得者は、当該仮登記担保権の被担保債権の消滅時効を援用することができる。
事件番号: 平成17(受)144 / 裁判年月日: 平成18年1月17日 / 結論: その他
甲が時効取得した不動産について,その取得時効完成後に乙が当該不動産の譲渡を受けて所有権移転登記を了した場合において,乙が,当該不動産の譲渡を受けた時に,甲が多年にわたり当該不動産を占有している事実を認識しており,甲の登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情が存在するときは,乙は背信的悪意者に当たる。
事件番号: 昭和38(オ)654 / 裁判年月日: 昭和40年3月4日 / 結論: 棄却
占有の訴に対しては、本権に基づく反訴を提起することができる。