不動産の所有者から一定の金員の支払と引換えに仮登記等の抹消登記手続をする旨の裁判上の和解をした仮登記等の権利者が、右所有者との間において、右和解成立の前提として右所有者が右権利者に対し右登記抹消義務履行の条件とされている一定の金員を支払う旨の裁判外の和解が成立したかどうかの判断にあたり、単に右裁判上の和解に無効又は取消の原因となる瑕疵がなく、かつ、右裁判上の和解条項に右所有者の金員支払義務が明記されていないことのみ判断し、右裁判外の和解の成否について証拠に基づき明確な判断をしないときは、審理不尽、理由不備の違法がある。
裁判上の和解成立を前提とする裁判外の和解が成立したかどうかの判断につき審理不尽理由不備の違法があるとされた事例
民訴法395条1項6号
判旨
裁判上の和解において、一定の金員の支払が義務ではなく義務履行の条件として記載されている場合であっても、別途、裁判外で当該金員の支払を目的とする合意が成立し得る。また、裁判外の合意が裁判上の和解によって変更・消滅したとの事実は、抗弁として当事者の主張を要する事項である。
問題の所在(論点)
1. 裁判上の和解条項で「引換給付(条件)」とされている事項について、別途裁判外で「支払義務」とする合意の成立が認められるか。 2. 裁判外の合意が後の裁判上の和解により変更・消滅したという事実を、裁判所が当事者の主張なく認定できるか(弁論主義の適用の有無)。
規範
1. 裁判上の和解において金員の支払が義務履行の条件(引換給付)とされている場合であっても、和解成立の前提や補完として、別途裁判外で支払義務を負う旨の合意をすることは妨げられない。 2. 裁判外の合意による債務が後の裁判上の和解によって変更・消滅したという事実は、抗弁事実に該当し、これに基づいて請求を排斥するには弁論主義に基づき当事者の主張を必要とする。
重要事実
上告人と被上告人は、仮登記抹消請求事件の控訴審において、被上告人が上告人に対し一定の金員を支払うことと引換えに上告人が仮登記を抹消する旨の裁判上の和解を成立させた。上告人は、この和解成立の前提として、裁判外で別途、被上告人が和解金2500万円及び違約損害金を支払う旨の合意(本件合意)があったと主張し、その支払を求めて提訴した。原審は、裁判上の和解条項では金員支払が単なる条件とされていることを理由に、本件合意があったとしても和解条項により変更・消滅したと判断し、かつ、被上告人による消滅の主張がないまま上告人の請求を棄却した。
あてはめ
1. 実定法上、裁判上の和解と並行して裁判外で補完的な合意をすることを禁ずる根拠はなく、世上もあり得る。したがって、和解条項に支払義務が明記されていないからといって、直ちに裁判外の合意を否定することはできない。 2. 原審は裁判外の合意による債務が消滅したと仮定的に認定したが、債務消滅の事実は被上告人の抗弁事項である。本件記録上、被上告人から債務消滅の主張があった形跡はないにもかかわらず、裁判所がこれを認定して請求を排斥したことは、弁論主義に違反する。
結論
裁判上の和解条項のみを理由に直ちに裁判外の合意を否定することは許されず、また、合意の消滅を当事者の主張なく認定した原判決には審理不尽・弁論主義違反があるため、破棄・差し戻しを免れない。
実務上の射程
裁判上の和解の既判力や合意の解釈が問題となる場面で活用できる。特に「和解条項にない義務」を裁判外の合意に基づき主張する際の論拠となる。また、要件事実論的な観点からは、債務の変更・消滅が抗弁事項であることを示す弁論主義の基本判例としても重要である。
事件番号: 昭和30(オ)795 / 裁判年月日: 昭和31年4月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】和解契約の成否および性質について、契約締結が心裡留保によるものではなく真意に基づく表示であること、および贈与ではなく和解に該当することを肯定した。 第1 事案の概要:上告人と相手方との間で本件和解が締結されたが、上告人は、当該和解が(1)真意によらない心裡留保によるものである、(2)停止条件付契約…
事件番号: 昭和32(オ)608 / 裁判年月日: 昭和34年5月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判上の和解が成立した場合、その内容に錯誤等の瑕疵がない限り、当該訴訟は和解によって終了する。 第1 事案の概要:上告人は、本件訴訟においてなされた和解が錯誤に基づくものであると主張し、和解の無効を前提として訴訟の継続を求めた。原審は、当該和解に錯誤は認められないと判断し、和解により訴訟は既に終了…