文化財保護法八〇条による史蹟名勝天然記念物の現状変更の制限につき損失補償に関する規定を欠くことをもつて、直ちに同条が憲法二九条三項に違反するとはいえない。
文化財保護法八〇条と憲法二九条三項
文化財保護法80条,憲法29条3項
判旨
損失補償規定を欠く場合であっても、憲法29条3項を直接の根拠として補償請求をすることが可能である。したがって、補償規定の欠如のみを理由に、財産権を制限する当該法律自体を直ちに違憲無効とすべきではない。
問題の所在(論点)
財産権を制限する法律において損失補償に関する規定を欠いている場合、憲法29条3項の規定に基づいて直接補償を請求できるか。また、補償規定を欠く法律は直ちに違憲無効となるか。
規範
公共のためにする財産権の制限が、一般的に当然受忍すべき範囲を超え、特定の人に対して「特別の犠牲」を課したものである場合には、損失補償に関する個別規定を欠く場合であっても、直接憲法29条3項を根拠として補償請求をすることが可能である。また、補償規定を欠いているからといって、その制限を定めた法規自体が直ちに違憲無効となるわけではない。
重要事実
上告人は、文化財保護法80条(現125条等)に基づき、史跡名勝天然記念物の現状変更を制限された。これに対し、同法が当該制限に伴う損失補償の規定を置いていないことを理由に、憲法29条3項等に違反し当該法律が違憲無効であると主張して争った。
事件番号: 昭和49(行ツ)88 / 裁判年月日: 昭和50年3月13日 / 結論: 棄却
公共のためにする財産権の制限が社会生活上一般に受忍すべきものとされる限度をこえ、特定の人に対し特別の財産上の犠牲を強いるものである場合には、これについて損失補償に関する規定がなくても、直接憲法二九条三項を根拠にして、補償請求をすることができないわけではない。
あてはめ
文化財保護法80条による現状変更の制限は、あらゆる場合に一切の損失補償を否定する趣旨のものとは解されない。仮に本件の制限が「特別の犠牲」に当たるとしても、上告人は憲法29条3項を直接の根拠として補償を請求しうる。したがって、同条に損失補償規定が置かれていないことのみを理由として、同条が憲法29条3項に違反して無効であるとはいえない。
結論
損失補償規定の欠如を理由とする法律の違憲主張は認められない。上告を棄却する。
実務上の射程
憲法29条3項の「正当な補償」の要否や補償の可否を論じる際の最重要判例の一つである。補償規定を欠く場合に「法律を無効にする」のではなく「直接補償請求を認める」という処理手順を示す際に用いる。答案では『森林法違憲判決』等で示された「特別の犠牲」の判断枠組みと併せて論じることが多い。
事件番号: 昭和55(オ)1185 / 裁判年月日: 昭和57年2月5日 / 結論: 棄却
鉱業法六四条の規定によつて鉱業権の行使が制限されても、これによつて被つた損失につき憲法二九条三項を根拠としてその補償を請求することはできない。