一 地主が小作地の一部を小作人に売渡すことを約し、小作地の他の部分について知事の賃貸借解約許可を得て合意によつて解約した後、地主が売渡を約した農地について売渡の手続もなさず、小作人の耕作をも認めず返還を要求したような場合は、右解約農地について、昭和二二年法律第二四〇号農地調整法の一部を改正する法律附則第三条によつて、農地委員会が、小作人に賃貸借契約締結に関し協議を求めることを承認したのは正当である。 二 昭和二二年法律第二四〇号農地調整法の一部を改正する法律附則第三条は憲法第二九条に違反しない。
一 昭和二二年法律第二四〇号農地調整法の一部を改正する法律附則第三条による賃貸借契約締結の協議の承認が正当とされた一事例 二 昭和二二年法律第二四〇号農地調整法の一部を改正する法律附則第三条と憲法第二九条
農地調整法の一部改正(昭和22年法律240号)附則3条,憲法29条
判旨
農地の賃借権回復を定めた農地調整法昭和22年附則3条は、不当な農地の取り上げを是正し耕作者の地位を安定させるという公共の福祉に基づく合理的な制限であり、憲法29条に違反しない。
問題の所在(論点)
農地調整法昭和22年附則3条に基づき、合意解約後の賃借権回復を認めることが、憲法29条の保障する財産権を侵害し違憲ではないか。
規範
農地調整法昭和22年附則3条は、不当な解約等によって農地の賃借人でなくなった者に対し、一定の要件下で賃借権の回復を認めている。この規定は、耕作者の地位の安定を図るという公共の福祉のために必要已むを得ない規定である。したがって、地主の財産権が制限されることがあっても、憲法29条が許容する公共の福祉による正当な制限の範囲内であり、同条に違反しない。
重要事実
上告人は賃借人Dに対し農地の返還を求めたが、農地委員会等の斡旋により、「上告人が別の農地(八の部)をDに売り渡す代わりに、Dが本件農地(十の部)の賃貸借を合意解約し返還する」との協定が成立し、知事の許可を得た。しかし、上告人は八の部の売渡手続を履行しないばかりかDの耕作すら認めず協定を破棄した。Dは賃借権回復の協議請求につき農地委員会の承認を得、これに対し上告人が裁定の無効を主張して提訴した。
事件番号: 昭和29(オ)550 / 裁判年月日: 昭和31年4月13日 / 結論: 棄却
昭和二四年法律第二一五号による農地調整法改正前においても、同法第四条によつて市町村農地委員会が行う農地等の所有権、賃借権等の設定、移転等の承認は同委員会の自由な裁量に委せられていたものと解すべきでない。
あてはめ
本件合意解約は、上告人が別の農地を売り渡すことを前提になされたものであり、上告人がその前提となる義務を履行せず、逆に返還を要求した事実は、農地調整法の目的に照らして「不当な解約」にあたる。同法附則3条は、このような不当な取り上げを是正して耕作者の地位を安定させる目的で設けられた。同条2項により承認が制限される仕組みもあり、目的達成に必要な限度での規制といえる。したがって、本件における賃借権回復の承認は公共の福祉に基づく適切な運用であり、私有財産権の不可侵を侵すものではない。
結論
農地調整法昭和22年附則3条は憲法29条に違反せず、同条に基づく賃借権回復の承認および裁決は適法である。
実務上の射程
財産権の制限が公共の福祉に適合するか否かの判断基準(目的の正当性と手段の必要性・合理性)を示す初期の重要判例。農地という特殊な財産において、特別法が一般法(民法)に優先し、かつ財産権の行使が公共の福祉により制約されることを明示した。
事件番号: 昭和26(オ)402 / 裁判年月日: 昭和28年4月3日 / 結論: 棄却
地主の家族は七名で耕作面積は係争農地を含めて二町四反余であり、居村では最上層部に位する農家であるのに対し、小作人は小作人として不誠実の点もなく約三〇年前から右農地を耕作して来、その家族は五名で耕作面積は僅かに五反歩に過ぎない場合は、合意によつて賃貸借を解約しても、その解約は自作農創設特別措置法第六条の二第二項第一号のい…
事件番号: 昭和37(オ)1349 / 裁判年月日: 昭和38年7月19日 / 結論: 棄却
自作農創設特別措置法第四七条の二が憲法第三二条に違反しないとする昭和二四年五月一八日大法廷判決(昭和二三年(オ)第一三七号、民集三巻六号一九九頁)の趣旨に徴し、右法規と同趣旨の行政事件訴訟特例法第五条は、憲法の同条規に違反しないものといわねばならない。