地主の家族は七名で耕作面積は係争農地を含めて二町四反余であり、居村では最上層部に位する農家であるのに対し、小作人は小作人として不誠実の点もなく約三〇年前から右農地を耕作して来、その家族は五名で耕作面積は僅かに五反歩に過ぎない場合は、合意によつて賃貸借を解約しても、その解約は自作農創設特別措置法第六条の二第二項第一号のいわゆる正当な解約ということはできない。
合意による農地賃貸借の解約が自作農創設特別措置法第六条の二第二項第一号にいわゆる正当な解約ということのできない一事例。
自作農創設特別措置法6条の2
判旨
農地の賃貸借が合意解約された場合であっても、賃貸人と賃借人の家族構成、経営規模、生活状況等を比較衡量し、解約に合理的な理由がない限り、自作農創設特別措置法上の「正当なもの」とは認められない。
問題の所在(論点)
自作農創設特別措置法6条の2第2項1号にいう、買収の対象外となる「正当な理由による解約」について、当事者間の合意解約がある場合にどのような基準でその正当性を判断すべきか。
規範
自作農創設特別措置法6条の2第2項1号にいう「正当なもの」としての解約にあたるか否かは、賃貸人および賃借人の双方の家族数、現に耕作している面積、地域における経済的地位、ならびに耕作の誠実性等の諸事情を総合的に比較衡量して判断すべきである。形式的に合意解約が成立しているという事実のみをもって直ちに「正当なもの」と解することはできない。
重要事実
上告人(賃貸人)は家族7名で、本件農地を含む2町4反余を耕作する地域最上層の農家であった。一方、賃借人Dは家族5名で、約30年前から本件農地を耕作しており、他に耕作面積は5反余に過ぎず、耕作状況も誠実であった。上告人とDは昭和22年2月に本件農地の賃貸借を解消する合意解約を行ったが、行政庁は同法に基づき当該農地を遡及買収したため、上告人がその処分の取消しを求めて争った。
あてはめ
本件において、上告人は既に2町4反余という広大な農地を経営する地域有力農家であるのに対し、賃借人Dは家族5名を抱えながら本件農地以外には僅か5反余の耕作地しか持たない小規模農家である。Dに不誠実な点がないにもかかわらず、経営規模の大きい上告人がさらに農地を回収することは、小作人の生活基盤を奪うことになり、農地改革の趣旨に照らして不合理である。したがって、たとえ合意があったとしても、本件解約を「正当なもの」と認めることはできない。
結論
本件買収処分は適法であり、上告人の請求は棄却されるべきである。
実務上の射程
農地法等の統制法規下において、形式的な「合意」があっても実質的な保護の必要性が高い当事者(小作人等)の利益が害される場合には、公法上の「正当事由」や「正当なもの」としての評価が否定されることを示した。司法試験においては、行政処分の要件解釈において、形式的合意よりも実質的な生活基盤の比較衡量(生存権的配慮)を重視する判断枠組みとして活用できる。
事件番号: 昭和26(オ)904 / 裁判年月日: 昭和28年4月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】農地の賃貸借の解約について、調停による合意解約がなされ、かつ賃借人に小作料の滞納等の事情がある場合には、旧自作農創設特別措置法附則3条2項2号にいう解約の適法性および正当性が認められる。 第1 事案の概要:上告人と被上告人(または訴外人)との間における係争田地の賃貸借について、調停による解約合意が…