地主の妻が小作人に農地の返還を求め、小作人が替地を要求したところ、地主の妻が「帰つて相談しておこう、或はまたもとのように此の田をあんたに代つて貰うことになるかも知らぬが、とにかく今年は返してくれ」と懇請したので、小作人がこれを承諾して右農地を返還した場合は、右の事実だけでは、右合意解約を、自作農創設特別措置法第六条の二第二項第一号にいう「正当」な解約であるとするには不充分である。
農地賃貸借の合意解約が自作農創設特別措置法第六条の二第二項第一号所定の「正当」に行われたと認めるにたりない場合の一事例
自作農創設特別措置法6条の2第1項2項1号
判旨
農地の合意解約が自作農創設特別措置法上の買収除外事由である「適法かつ正当」なものに該当するかは、単に任意に出た合意である(適法)だけでは足りず、信義則違反や耕作者の地位安定を脅かすおそれの有無等を総合的に判断して「正当」と認められる必要がある。
問題の所在(論点)
自作農創設特別措置法6条の2第2項1号に定める、農地の買収除外事由としての「適法かつ正当」な合意解約の意義、特に「正当」性の判断枠組みが問題となる。
規範
自作農創設特別措置法6条の2第2項1号にいう「適法かつ正当」な合意解約とは、単に当事者の自由な意思に基づく任意的な合意(適法性)のみを指すのではない。同法の制定趣旨(1条)に照らし、①解約が信義に反しないか、②解約の結果として耕作者の地位の安定を脅かすおそれがないか、③その他同法の趣旨に照らして正当とすべき事情があるか、といった観点から実質的に判断されるべきである。
重要事実
上告人は、昭和20年11月から本件田地の裏作として麦を栽培していた。翌年春、地主Dの妻Eが返還を申し出たため、上告人は替地を要求。Eは「相談するが、ひとまず今年は返してくれ」と懇請した。上告人はこれを受け、替地問題が未解決のまま昭和21年5月に麦の収穫を終えて土地を返還した。原審は、この一連の経緯から「適法かつ正当」な合意解約を認めたが、上告人がその「正当性」を争い上告した。
あてはめ
本件において、上告人と地主側の間には、土地返還に関する任意の合意が存在したといえ、同号の「適法」性は認められ得る。しかし、原審は替地要求が未解決である点や、耕作者たる上告人の地位に与える影響を十分に考慮していない。農地の解約が「正当」であるというためには、単なる合意の存在だけでなく、信義則への抵触や耕作者の保護という法の目的に照らした審理が必要であるが、原審はこれらの要素を調査・判断しておらず、審理不尽および解釈の誤りがあるといえる。
結論
単に任意の合意があったという事実のみでは「正当」な合意解約とは認められない。信義則や耕作者保護の観点からの審理を尽くさせるため、原判決を破棄し、差戻しを命じる。
実務上の射程
本判決は、行政法や民法の特別法領域において、形式的な合意の存否だけでなく、法の目的(農地の衡平な利用や耕作者の地位安定)に基づき「正当性」を実質的に判定すべきことを示した。答案上では、条文に「適法かつ正当」といった並列的要件がある場合、それぞれに独自の規範的意味を認めるべきとする解釈指針として活用できる。
事件番号: 昭和26(オ)904 / 裁判年月日: 昭和28年4月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】農地の賃貸借の解約について、調停による合意解約がなされ、かつ賃借人に小作料の滞納等の事情がある場合には、旧自作農創設特別措置法附則3条2項2号にいう解約の適法性および正当性が認められる。 第1 事案の概要:上告人と被上告人(または訴外人)との間における係争田地の賃貸借について、調停による解約合意が…