民法七七二条による推定を受ける嫡出子は、他に実父がいる場合であつても、同法七七四条ないし七七八条に定められている嫡出否認の訴によつてその推定が覆えされないかぎり、実父に対して認知の訴を提起することはできない。
民法七七二条による推定を受ける嫡出子と認知の訴
民法772条,民法774条,民法775条,民法776条,民法777条,民法778条,民法787条
判旨
民法772条により嫡出推定を受ける子は、嫡出否認の訴えによりその推定が覆されない限り、実父に対して認知の訴えを提起することはできない。ただし、夫が妻を懐胎させることが客観的に不可能な事情がある場合には、この限りではない。
問題の所在(論点)
民法772条の嫡出推定を受ける子につき、嫡出否認の訴えを経ることなく、実父に対する認知の訴えを提起することができるか(認知の訴えの原告適格)。
規範
民法772条による嫡出推定を受ける子は、民法774条ないし778条に定める嫡出否認の訴えによって推定が覆されない限り、他に従前の婚姻関係外の実父が存在する場合であっても、当該実父に対して認知の訴え(民法787条)を提起する原告適格を有しない。ただし、妻が夫によって懐胎することが客観的に不可能な事情(いわゆる「推定の及ばない」事情)がある場合は、例外的に推定を受けず、認知の訴えを提起し得る。
重要事実
母Dと夫Eは婚姻関係にあり、Eは外泊を繰り返していたが土日には帰宅していた。その間、Dは下宿人であった上告人(実父とされる者)と複数回性的関係を持ち、被上告人を懐胎・出産した。被上告人の出生日は婚姻後200日経過後、婚姻解消前であり、民法772条2項の推定期間内にあった。
あてはめ
被上告人は民法772条2項の推定期間内に出生したE夫婦の嫡出子であることが明らかである。本件において、夫Eは外泊を重ねていたものの、土日には帰宅していた事実が認められる。そうであれば、母Dが夫Eによって懐胎することが客観的に不可能な事情があったとは直ちに断定できない。したがって、嫡出否認の訴えによって推定が覆されない限り、被上告人は認知の訴えの原告適格を欠くといえる。
結論
被上告人が認知の訴えの原告適格を有するとした原判決には法令の解釈・適用の誤りがある。夫による懐胎が客観的に不可能であったか等の審理を尽くさせるため、原判決を破棄し差し戻す。
実務上の射程
嫡出推定が働く場面では、身分関係の法的安定性を重視し、認知の訴え(実親子関係の存否確認)よりも嫡出否認の訴えを優先させる原則(嫡出否認の訴えの排他的制限)を確立した。答案上は「推定の及ばない嫡出子」の例外要件を検討する際の中核的判例として用いる。
事件番号: 昭和44(オ)769 / 裁判年月日: 昭和44年11月27日 / 結論: 棄却
民法七七二条の類推適用により父性の推定を受ける子についても、認知の訴の提起にあたつては、出訴期間の制限に関する同法七八七条但書の適用がある。