離婚による婚姻解消後三〇〇日以内に出生した子であつても、母とその夫とが、離婚の届出に先だち約二年半以前から事実上の離婚をして別居し、まつたく交渉を絶つて、夫婦の実態が失われていた場合には、民法七七二条による嫡出の推定を受けないものと解すべきである。
婚姻解消後三〇〇日以内に出生した子が嫡出の推定を受けないとされた事例
民法772条,民法774条
判旨
婚姻解消の日から300日以内に出生した子であっても、母と前夫が既に事実上の離婚をして夫婦の実態を失っていた場合には、民法772条の推定を受けない。この場合、前夫による嫡出否認を待たずに実父に対して認知の請求をすることが可能である。
問題の所在(論点)
民法772条2項の規定により離婚から300日以内に出生した子は夫の子と推定されるが、離婚届出の約2年半前から夫婦関係が実質的に破綻していた場合、なお同条の推定が及ぶか。また、推定が及ばない場合に嫡出否認の手続きを経ずに認知請求ができるか。
規範
民法772条の規定により嫡出推定を受ける子であっても、妻がその子を懐胎した当時、既に夫婦が事実上の離婚をして別居し、夫婦の実態が失われていた場合には、同条の推定は及ばない(いわゆる「推定の及ばない嫡出子」)。この場合、嫡出否認の訴えの手続きを経ることなく、母、子またはその法定代理人は実父に対して認知を請求することができる。
重要事実
母Dは、昭和21年に夫Eと結婚したが、同24年4月頃に事実上の離婚をして別居し、以降全く交渉を絶っていた。Dは昭和26年10月にEと正式に離婚したが、それに先立つ昭和25年9月頃から上告人と肉体関係を持ち、昭和27年3月に被上告人B1を出産した。B1は、母DとEとの婚姻解消(離婚届出)から300日以内に出生した子であった。
あてはめ
本件において、母Dと夫Eは、離婚届出の約2年半前から事実上の離婚状態にあり、夫婦の実態は完全に失われていた。離婚の届出が遅れていたにすぎない状態であったといえる。そうであれば、懐胎時に夫の子を妊娠する可能性が客観的に存在しなかったのと同視できるため、被上告人B1は実質的には民法772条の推定を受けない嫡出子であると解される。
結論
被上告人B1は民法772条の推定を受けないため、前夫Eによる嫡出否認を待つまでもなく、実父である上告人に対して認知を請求することができる。
実務上の射程
本判決は「推定の及ばない嫡出子」の理論を確立した重要判例である。答案上では、772条の文言上は推定が及ぶ場面でも、別居等の事実により「夫の子を懐胎することが不可能である」ことが客観的に明白な場合には、推定を否定して認知や親子関係不在確認を可能とする論理として用いる。
事件番号: 昭和48(オ)812 / 裁判年月日: 昭和49年2月8日 / 結論: 破棄差戻
民法七七二条による推定を受ける嫡出子は、他に実父がいる場合であつても、同法七七四条ないし七七八条に定められている嫡出否認の訴によつてその推定が覆えされないかぎり、実父に対して認知の訴を提起することはできない。