捜査機関の広報担当者が発表した被疑事実について、取材記者及び編集者がこれを被疑事実としてではなく客観的真実であるかのように誇張して報道したことにより他人の名誉を段損したときは、取材記者及び編集者は、発表された事実を真実であると信じたことに相当な理由があつたとして過失の責任を免れることはできない。
捜査当局の発表した事実に基づいて報道した取材記者及び編集者に過失の責任があるとされた事例
民法709条
判旨
捜査機関の発表を被疑事実としてではなく客観的真実として報道した場合、取材・編集者がその内容を真実と信じたことに相当の理由があるとは認められず、名誉毀損の過失責任を免れない。
問題の所在(論点)
捜査機関の広報発表に基づき記事を作成した際、発表内容を客観的真実として報じた場合に、真実相当性の抗弁(過失の阻却)が認められるか。また、悪意がない場合の正当業務行為の成否が問題となる。
規範
1. 報道機関が捜査機関の発表を報じる際、これを「被疑事実」としてではなく「客観的真実」として報道した場合には、発表内容を真実と信じたことについて、不法行為上の過失を阻却する「相当な理由」があるとは認められない。 2. 記事の掲載につき積極的な害意や侮辱的言辞がないとしても、不法行為としての名誉毀損が成立する場合には、その報道は正当業務行為(刑法35条類推適用)の範囲を逸脱するものと解すべきである。
重要事実
捜査機関の広報担当者が発表した被疑事件の内容について、報道機関の取材記者および編集者が、これを単なる「被疑事実(容疑がかかっている事実)」として報じるにとどめず、あたかも「客観的な真実」であるかのように断定して報道した。これにより、報道の対象となった者の名誉が毀損されたとして、不法行為に基づく損害賠償が請求された事案である。
あてはめ
本件では、取材記者らが捜査機関の発表に基づき記事を執筆しているが、それを被疑事実としてではなく客観的真実として報道している。捜査機関の発表はあくまで捜査段階の疑いに過ぎないため、これを真実と断定して報じることは、真実と信じるに足りる「相当な理由」を欠く評価となる。また、被告側に積極的な害意や侮辱の意図がなかったとしても、客観的に名誉を毀損する態様で報じている以上、報道の公共性を鑑みても正当業務行為の範囲内にあるとはいえない。
結論
被告らには名誉毀損の不法行為が成立し、過失責任および正当業務行為による違法性阻却は認められない。
実務上の射程
報道機関による名誉毀損事案において、真実相当性の要件(夕刊和歌山時報事件等)を具体化する判例である。「被疑事実」を「客観的真実」とすり替えて報じる表現態様の危険性を指摘しており、答案上は過失(相当理由)の検討段階で、記事の断定的な表現方法を捉えて過失を肯定する論拠として活用できる。
事件番号: 平成9(オ)1371 / 裁判年月日: 平成14年1月29日 / 結論: 破棄差戻
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