新聞社が通信社から配信を受けて自己の発行する新聞紙にそのまま掲載した記事が私人の犯罪行為やスキャンダルないしこれに関連する事実を内容とするものである場合には,当該記事が取材のための人的物的体制が整備され,一般的にはその報道内容に一定の信頼性を有しているとされる通信社から配信された記事に基づくものであるとの一事をもって,当該新聞社に同事実を真実と信ずるについて相当の理由があったものとはいえない。
通信社から配信を受けた記事をそのまま掲載した新聞社にその内容を真実と信ずるについて相当の理由があるとはいえないとされた事例
民法709条,民法710条,刑法230条の2第1項
判旨
新聞社が通信社から配信された記事を掲載して他人の名誉を毀損した場合、私人の犯罪行為等に関する報道分野については、通信社からの配信に基づくという一事のみでは「真実と信ずるに足りる相当の理由」があるとは認められない。
問題の所在(論点)
新聞社が、信頼性の高い通信社から配信された記事を裏付け取材なしに掲載し名誉を毀損した場合において、通信社からの配信であるという事実のみをもって、真実と信ずるに足りる「相当の理由」(配信サービスの抗弁)が認められるか。
規範
民事上の不法行為たる名誉毀損において、摘示事実が真実であるとの証明がない場合でも、行為者が真実と信ずるにつき相当の理由があるときは、故意・過失が否定され不法行為は成立しない。もっとも、私人の犯罪行為やスキャンダルに関する報道分野においては、通信社の配信記事であっても高い信頼性が確立しているとはいえず、当該配信に基づくという一事のみをもって、直ちに「相当の理由」を認めることはできない。
重要事実
通信社(被上告補助参加人)は、当時「ロス疑惑」で逮捕されていた上告人が過去に大麻を所持していたとする記事を加盟新聞社(被上告人ら)に配信した。被上告人らは、自ら裏付け取材を行うことなく、また配信元を明示せずに、当該記事を自社紙面に掲載した。後に当該事実は真実であると証明されず、通信社側にも真実と信ずるにつき相当の理由が認められないことが確定した。
あてはめ
本件各記事は、私人の犯罪行為やスキャンダルという社会の関心を引く分野の報道であり、取材の慎重さを欠く誤報が生じやすい性質を有する。わが国の現状では、かかる分野において通信社の記事内容に確実な資料があるものと無条件に受け止めることが「無理からぬもの」とはいえない。また、本件では通信社側に相当の理由がなく、新聞社側においても他に不法行為を否定すべき特段の事情は存しない。したがって、配信に基づく掲載という理由だけでは相当の理由を基礎づけられない。
結論
被上告人ら(新聞社)に損害賠償義務を免れるほどの「相当の理由」は認められず、不法行為が成立する可能性があるため、原判決を破棄し差し戻す。
実務上の射程
私人のプライバシーや犯罪に関わる名誉毀損事案において、他社の報道や通信社配信を鵜呑みにした「乗り合わせ報道」の過失相殺や免責を厳格に制限する射程を持つ。答案上は、情報の信頼性や検証可能性を検討する際の重要な規範となる。
事件番号: 平成9(オ)1371 / 裁判年月日: 平成14年1月29日 / 結論: 破棄差戻
通信社が,殺人未遂罪で逮捕された甲が7,8年前に自宅で大麻を所持しており,その事実を捜査機関が突き止めた旨の事実を記事にして配信し,新聞社がこれを掲載した場合に,甲が自宅に大麻を所持していた事実の裏付けになる資料は甲と離婚した乙の供述のみであること,捜査の対象となっていない大麻所持についての報道であること,甲以外の関係…