手形の裏書欄中、裏書人の名下の捺印部分に重ねて、同印の約三分の一の直径の、通常会計帳簿に使用される「済」なる印が青色インクで押捺されているが、裏書人の記名は存置されていて、判示のようなこれを抹消する通常の手段がとられていない場合には、右裏書は抹消されたものではない。
手形の裏書が抹消されたものではないとされた事例
手形法16条1項
判旨
手形上の記載を抹消したといえるためには、当該記載を除去する意思が手形上客観的に表現されていることを要する。
問題の所在(論点)
手形面上に「済」という印が裏書人の印影に重ねて押捺されている場合、当該裏書が「抹消」(手形法16条2項参照)されたものと認められるか。抹消の有無を判断する基準が問題となる。
規範
手形法上の記載の抹消が認められるためには、単に内心的意思があるだけでは足りず、当該記載を除去しようとする意思が、手形面上において客観的に表現されている必要がある。
重要事実
約束手形の第一裏書欄において、裏書人の名下の捺印部分に重ねて、印影の約3分の1の大きさである会計帳簿用の「済」という青色印が押捺されていた。一方で、裏書人の記名自体は存置されており、抹消線が引かれるなどの措置は講じられておらず、通常抹消に使用されるような形式の押印もなされていなかった。
あてはめ
本件では、記名部分に抹消線が引かれておらず、記名自体は明確に残されている。また、重ねて押された「済」印は、本来の印影よりも大幅に小さく、通常は会計処理の便宜のために用いられるものに過ぎない。このような態様は、手形法上の権利義務関係を消滅させるための「記載の除去」を示す一般的な形式とはいえない。したがって、裏書を抹消する意思が手形面上に客観的に表現されているとは認められない。
結論
本件裏書は抹消されたものとは認められない。
実務上の射程
裏書の連続(手形法16条1項)の判断において、抹消された裏書は「書かざるもの」とみなされる(同2項)。本判決は、外観信頼を重視する手形法の法理から、抹消の成否は手形面上の客観的記載から判断すべきであることを示した。実務上、抹消の意思を明確にするには抹消線を引く等の明白な方法を採るべきであり、曖昧な印影の重なりだけでは抹消と認められないリスクがあることを示唆している。
事件番号: 昭和28(オ)491 / 裁判年月日: 昭和32年12月5日 / 結論: 棄却
約束手形の裏書人が、裏書を抹消することなく所持人として提起した手形金請求訴訟において、振出人から裏書の連続を欠く旨の抗弁が提出された後に右裏書を抹消した場合においても、手形法第一六条により右裏書はこれを記載せざりしものとみなすべきものである。