金融機関である甲が、乙に対する貸金債権の担保のため乙の甲に対する預金債権につき質権の設定を受け、乙から丙に右預金債権が譲渡されたのち、これに対する質権の実行としてその取立をし右貸金債権の弁済に充当するに際し、乙から右貸金債権の担保として交付されていた手形を丙に交付しないで乙に返還し、そのため丙の乙に対する求償権の満足を得ることを不可能にさせたなど判示の事情がある場合には、甲は、右手形を交付すべき相手方を誤り丙に損害を与えたことにつき、過失の責を免れない。
債権者が代位弁済を受けるに際し担保物を代位者に交付しなかつたことにつき過失があるとされた事例
民法500条,民法503条,民法709条
判旨
金融機関が預金債権の譲渡通知を受けた後、当該債権を自己の貸金債権の弁済に充当するにあたり、担保手形を適切な相手方に返還せず代位権者の権利を侵害した場合は、注意義務違反として不法行為責任を負う。
問題の所在(論点)
債権譲渡の通知を受けた銀行が、譲渡の有効性に疑義が生じた場合に、譲受人の地位を確認せずに担保手形を譲渡人に返還し、譲受人の求償権行使を不能にした行為は、不法行為法上の注意義務違反(過失)を構成するか。
規範
第三者が弁済等により債権者に代位し得る地位にある場合、債権を取り扱う金融機関等の当事者は、当該代位権者の利益を不当に侵害しないよう、担保物の返還先を適切に判断すべき注意義務を負う。債権譲渡の通知を受けた後に、譲渡人(債務者)側の虚偽の主張を鵜呑みにして譲受人の利益を確認せず、担保物件を譲受人以外に返還し、その求償権行使を不能にさせた場合には、過失による不法行為が成立する。
重要事実
債務者D社は、債権者らから信託を受けたE社に対し預金債権を譲渡した。銀行である上告人はこの譲渡通知を受けたが、その後D社から「譲渡は真意ではない」との説明を受けた。上告人はこの説明を真実か確認せず、預金債権を自己の貸金債権の弁済に充当(質権実行)した際、担保として保持していた手形を本来交付すべきE社ではなくD社に返還した。その結果、E社はD社に対する求償権の満足を得ることが不可能となった。
あてはめ
上告人は預金債権の譲渡通知を正式に受けており、E社が弁済等により債権者に代位し得る地位にあることを認識し得た。にもかかわらず、譲渡人D社の「譲渡は真意ではない」という一方的な主張のみを根拠とし、E社への事実確認を怠ったまま、担保である本件手形をE社ではなくD社に返還している。これは金融機関として尽くすべき注意義務を欠くものであり、代位権者の地位を看過して担保の返還先を誤ったことにつき過失が認められる。
結論
上告人の行為は注意義務違反にあたり、過失による不法行為責任を免れないため、上告棄却を免れない。
実務上の射程
債権譲渡や代位弁済が絡む局面で、金融機関が担保保存・返還義務を負う際の注意義務の程度を示す。譲渡通知後の対抗要件が備わった状況では、譲渡人の単なる口頭の主張を信じて譲受人の利益を損なう処理をすることは、不法行為上の過失と評価される可能性が高いことを示唆している。
事件番号: 昭和38(オ)681 / 裁判年月日: 昭和40年2月23日 / 結論: 棄却
原判決の認定した事実関係(大阪高裁昭和三八年三月一八日判決、金融法務事情三六二号二九頁所収)のもとでは、本件預金契約は、上告人と被上告人との間に成立したものと認めるのが相当である。