土地の賃借人が地上建物を仮装譲渡した場合、土地賃貸人は、右譲渡につき民法九四条二項にいわゆる第三者にあたらない。
借地上建物の仮装譲渡の無効は土地賃貸人に対抗しうるか
民法94条,民法612条
判旨
不動産の仮装譲渡が行われた場合において、その不動産の賃借人は、民法94条2項にいう「第三者」には当たらない。また、賃貸借契約の当事者間に信頼関係を破壊するに足りる不信行為が認められない限り、契約の解除は認められない。
問題の所在(論点)
1. 仮装譲渡された建物の賃借人が、民法94条2項の「第三者」に該当するか。 2. 賃貸人の特定の所為が、賃貸借契約における信頼関係を破壊するに足りる不信行為といえるか。
規範
民法94条2項の「第三者」とは、虚偽表示の目的物について、その権利の欠缺を前提として、新たに独立した法律上の利害関係を有するに至った者をいう。単に目的物を賃借しているに過ぎない者は、所有権の帰属が誰にあるかによって賃借権の法的地位が直接左右されるものではないため、原則として同条項の「第三者」に該当しない。
重要事実
建物所有者Dが数次にわたり仮装の所有権移転登記を行ったが、実質的な所有権は一貫してDに帰属していた。この建物の賃借人である上告人は、Dによる仮装譲渡の譲受人等との関係において、民法94条2項の善意の第三者として保護されるべきであると主張した。また、被上告人B(賃貸人側)の行為が信頼関係を破壊する不信行為に該当し、賃貸借契約を終了させるべきか否かが争われた。
事件番号: 昭和46(オ)777 / 裁判年月日: 昭和47年3月7日 / 結論: 棄却
土地賃借人が地上建物を他に仮装譲渡した場合に、右土地の賃貸人は民法九四条二項にいう第三者にあたらない。
あてはめ
1. 本件建物において数次の所有権移転登記がなされたものの、所有権は一貫してDに留まっていた。上告人は本件建物の賃借人という地位にあるが、所有権の仮装譲渡がなされたとしても、賃借人は譲渡の対象となった権利そのもの(所有権)について新たな法律上の利害関係を得た者とはいえず、同条項の「第三者」には当たらない。 2. 被上告人Bの行為について、原審が確定した事実関係に照らせば、賃貸借契約の根幹である信頼関係を破壊するほどの背信性は認められず、解除等の効力を生じさせる不信行為とは評価できない。
結論
本件建物の賃借人は民法94条2項の第三者に該当せず、また賃貸人側の行為も信頼関係を破壊する不信行為とはいえないため、上告人の主張は棄却される。
実務上の射程
虚偽表示における「第三者」の範囲を限定するリーディングケースの一つ。答案上では、不動産賃借人や差押債権者など、目的物に対して債権的権利を有するに過ぎない者が「新たな独立した法律上の利害関係」を有するかを判断する際の基準として用いる。また、信頼関係破壊の法理の適用場面において、具体的な不信行為の存否を事実認定に基づき否定した事例としても参照される。
事件番号: 昭和56(オ)988 / 裁判年月日: 昭和57年6月8日 / 結論: 棄却
土地の仮装譲受人からその建築にかかる右土地上の建物を賃借した者は、民法九四条二項所定の第三者にはあたらない。
事件番号: 昭和38(オ)1349 / 裁判年月日: 昭和40年9月10日 / 結論: 棄却
表意者自身において要素の錯誤による意思表示の無効を主張する意思がない場合には、原則として、第三者が右意思表示の無効を主張することは許されない。
事件番号: 昭和37(オ)93 / 裁判年月日: 昭和38年5月24日 / 結論: 棄却
甲が乙より土地を賃借した後、右土地の所有権が乙、丙、丁と順次譲渡された場合において、丙は乙の実子であり、丁は乙、丙その他これと血族または姻族関係にある者の同族会社であつて、その営業の実態は乙の個人営業をそのまま引き継いだものであり、乙がその中心となつている等原判示のような事情(原判決理由参照)があるときは、甲の右賃借権…
事件番号: 昭和37(オ)365 / 裁判年月日: 昭和37年9月28日 / 結論: 棄却
所有権の行使に民法第一条第三項の適用はあるが、所有権の取得に同条項の適用はない。