係争地の通行権を主張する甲に対処するため乙が通行禁止の仮処分申請を余儀なくされたことによつて被つた損害の賠償を求めた前訴の確定判決が、その理由中の判断において甲の通行権の存在を認めて乙の請求を棄却したのち、甲が右仮処分によつて被つた損害の賠償を求めた後訴の判決が、甲が通行権を有するとは認められないから仮処分が違法なものとはいえないとして、甲の請求を棄却しても、後訴の判決が前訴の確定判決の既判力に抵触するとはいえず、たとえ、前訴において当事者が右通行権の存否を争点として、主張・立証を尽くし、裁判所がこの点について実質的審理を遂げていたとしても、理由中の判断に包含されるにとどまる右通行権の存否に関し、前訴の確定判決に既判力ないし既判力類似の効力を認めることはできない。
判決の理由中の判断に包含されるに過ぎない法律関係について既判力ないし既判力類似の効力が認められないとされた事例
民訴法199条1項
判旨
民事訴訟法114条1項により既判力は主文に包含される事項にのみ生じ、判決理由中で判断された争点については、当事者が主張立証を尽くし裁判所が実質的審理を遂げた場合であっても既判力やそれに類する効力は生じない。
問題の所在(論点)
前訴の判決理由中で示された「通行権の存在」という判断について、後訴を拘束する既判力またはそれに準ずる効力(争点効等)が認められるか。特に、当事者が十分に主張立証を尽くした場合に例外が認められるか。
規範
民事訴訟法114条1項(旧199条1項)によれば、既判力は主文に包含される訴訟物たる法律関係の存否に関する判断についてのみ生じる。判決の前提となる法律事実の認定や、理由中で示された法律関係の存否に関する判断は、同条2項のような特別の規定がない限り既判力を有しない。また、当事者が争点として主張立証を尽くし裁判所が実質的審理を遂げた事項であっても、既判力類似の効力を認めることはできない。
重要事実
被上告人は、上告人による本件係争地の通行権主張に対抗するため、通行禁止等の仮処分申請を余儀なくされたとして、不法行為に基づき弁護士費用等の損害賠償を求める前訴を提起した。前訴判決では「上告人は通行権を有するから、その主張は違法ではない」との理由により、被上告人の請求を棄却する判決が確定した。その後、別訴(後訴)において本件係争地の通行権の有無や仮処分の違法性が再び争われた。
あてはめ
前訴の訴訟物は不法行為に基づく損害賠償請求権の存否であり、通行権の存否は判決理由中での判断にすぎない。民訴法114条1項は既判力の範囲を主文に限定しており、理由中の判断には原則として既判力は及ばない。上告人は、当事者が争点として主張立証を尽くした場合には既判力類似の効力を認めるべきと主張するが、現行法上の法理に照らせば、審理の充実度にかかわらず理由中の判断に既判力を認めることはできない。したがって、前訴での通行権に関する判断は後訴を拘束しない。
結論
前訴の判決理由中の判断に既判力は認められず、後訴において前訴の判断と異なる認定をすることは許される。上告を棄却する。
実務上の射程
判決理由中の判断に既判力を認めない原則を堅持し、学説上の「争点効」を明確に否定した重要判例である。答案上は、理由中の判断の拘束力が問われた際に本判例を引用し、信義則(民訴法2条)による解決の検討へ繋げる際の出発点として活用する。
事件番号: 昭和38(オ)473 / 裁判年月日: 昭和39年11月24日 / 結論: 棄却
当事者が真正に成立したものとして提出した書証の一部の成立を相手方が争つた場合、原審がその成立に争いがないものとして判断の資料に供しても、当該当事者がその違法を主張して上告する利益はない。