建物の賃借人が、賃貸人の承諾をえることなく賃借にかかる建物の主要の部分を取り毀した場合には、賃貸人は、特段の事情のないかぎり、催告を経ないで賃貸借契約を解除することができるものと解すべきである。
建物賃借人の無断建物取毀を理由とする賃貸借の解除と催告の要否
民法541条
判旨
賃借人が承諾なく賃借建物の全部または一部を取り壊す行為は、保管義務の重大な違反であり、特段の事情がない限り信頼関係を著しく破綻させるため、賃貸人は無催告で契約を解除できる。
問題の所在(論点)
賃借人が賃貸人の承諾なく建物の一部を取り壊した場合、賃貸人は民法541条に基づく催告を要することなく、賃貸借契約を解除することができるか。
規範
賃借人が賃貸人の承諾なく賃借建物を取り壊す行為は、賃借物保管義務(民法400条)の重大な違反である。したがって、取毀しの程度が極めて軽微である等、社会通念上是認できる「特段の事情」がない限り、賃貸借契約の基礎である信頼関係を著しく破綻させたものと解すべきである。この場合、事柄の性質上、催告は不要であり、賃貸人は無催告で契約を解除し得る。
重要事実
上告人(賃借人)は、被上告人(賃貸人)の承諾を得ることなく、本件建物の床面積約49.58平方メートルのうち一部を取り壊した。当該建物の固定資産課税評価額は23万8800円であった。被上告人は、上告人に対し、この取毀しを理由として催告をすることなく賃貸借契約解除の意思表示をした。
あてはめ
上告人は、建物の所有者である被上告人に無断で建物の一部を破壊しており、これは善良な管理者の注意をもって建物を保管すべき義務に著しく違反する。本件における取毀しの程度は「極めて軽微」とはいえず、また他に社会通念上是認できるような「特段の事情」も認められない。したがって、本件取毀し行為により賃貸借間の信頼関係は著しく破綻したといえ、被上告人による無催告解除は有効である。
結論
賃借人による無断の建物取毀しが保管義務の重大な違反にあたり、信頼関係を著しく破綻させる場合には、賃貸人は催告を要せず直ちに賃貸借契約を解除することができる。
実務上の射程
賃貸借の信頼関係破壊理論を、無断転貸(民法612条2項)以外の義務違反(保管義務違反等)に適用し、かつ無催告解除を認める際の判断枠組みとして活用できる。答案上は、まず保管義務違反を指摘し、信頼関係の破壊の有無を判断する際に「取毀しの程度」や「特段の事情」の有無を検討する。
事件番号: 昭和44(オ)78 / 裁判年月日: 昭和44年6月17日 / 結論: 棄却
家屋の一室を除く部分の賃借人が、賃借外の右一室につき、賃貸人の承諾なく判示のような改造を施し、これを賃借部分とあわせて使用している場合には、賃借人の右行為は、賃貸借契約の継続を困難ならしめる著しい不信行為に該当し、賃貸人は、催告なしに賃貸借契約を解除することができる。
事件番号: 昭和43(オ)749 / 裁判年月日: 昭和44年1月31日 / 結論: 棄却
一、土地の賃貸借契約において、賃借人が賃借権もしくは賃借地上の建物を譲渡し、賃借物を転貸しまたは右建物に担保権を設定しようとするときには賃貸人の承諾を得ることを要し、これに違反したときは賃貸人が賃貸借契約を解除することができる旨の特約があるにもかかわらず、賃借人が賃貸人の承諾を得ないで右特約所定の行為をした場合でも、賃…
事件番号: 昭和37(オ)601 / 裁判年月日: 昭和39年6月4日 / 結論: 棄却
土地賃借人が賃貸人の申し入れた地代値上の交渉をことさらに回避し、かつ、地下室の建設を禁ずる旨の約定があったのにこれを無視して地下室建設工事に着手し、賃貸人において工事中止もしくは原状回復の催告をしたとしても賃借人がこれに応じたとは到底認め得ないような事情(原判決理由参照)があるときは、賃貸人は、賃借人に著しい不信行為が…
事件番号: 昭和39(オ)1243 / 裁判年月日: 昭和41年6月9日 / 結論: 棄却
地上建物を地主に無断で増改築しない旨の特約に違反して、地主に無断で旧建物たる平家建バラツクを支柱の一部のみを残して他を全部とりこわし、新たに二階建本建築をした等原審認定の事実関係のもとにおいては、右無断増改築を理由とする土地賃貸借契約解除は有効と解すべきである。