甲と乙銀行との間において、乙が甲に金員を貸し付け、これと同時に、甲は乙に対し右金員と同額の定期預金をする旨約され、右金員の各占有の移転が占有改定と簡易の引渡によつてなされ、しかも、右各契約がなされたと同じ日に、乙から甲に対し定期預金証書が交付されたという事実関係のもとにおいては、右消費貸借契約の要物性は充足されたものと解すべきである。
消費貸借契約における要物性が充足されたと認められた事例
民法587条
判旨
金銭の貸付けと同時に、借主が貸主に対し同額の定期預金をする旨合意された場合、金銭の占有移転が占有改定および簡易の引渡によって行われ、かつ定期預金証書が交付されていれば、消費貸借の要物性に欠けるところはない。
問題の所在(論点)
金銭の貸付けと同時に同額の預金がなされるいわゆる「歩積み・拘束預金」のような形式において、占有改定や簡易の引渡しによる金銭の授受が認められるか、すなわち消費貸借契約の要物性を満たすか。
規範
消費貸借契約(民法587条)が成立するためには、目的物の授受(要物性)が必要であるが、この授受は現実の引渡しに限られず、占有改定や簡易の引渡しといった観念的占有移転による方法であっても、当事者間に実質的な支配の移転が認められる限り、要物性の要件を満たす。
重要事実
貸主(被上告人)が借主(上告人)に対し100万円を貸し付けると同時に、借主が貸主に対し同額の定期預金をする旨を約した。金銭の占有の移転については、占有改定および簡易の引渡しによって行われたものとされ、同日、貸主から借主に対して定期預金証書が交付された。その後、借主側は金銭の現実の授受がないことを理由に、消費貸借契約の成立(要物性)を争った。
事件番号: 昭和38(オ)237 / 裁判年月日: 昭和40年3月19日 / 結論: 棄却
公正証書には担保物件として土地および建物を供した旨の記載があるのに、その作成を嘱託した委任状には単に建物を供した旨の記載があるにすぎない場合にも、真実該公正証書記載どおりに作成すべき権限を有していたのに土地の記載を脱落したものであることが明らかなときは、右瑕疵は該公正証書の無効をきたす重大なものとは解されない。
あてはめ
本件では、100万円の貸付と同時に同額の定期預金契約が締結されており、その占有移転は占有改定および簡易の引渡しによってなされている。さらに、貸主から借主に対し、預金者として権利を行使し得る定期預金証書が実際に交付されている。このような事実関係のもとでは、形式的な現金の移動がなくとも、借主において金銭に対する法律上の支配が認められる状態が作出されたといえるため、金銭の受け渡しがあったものと評価できる。
結論
本件消費貸借契約は、成立要件たる要物性に欠けるところはなく、有効に成立している。
実務上の射程
現実の現金の受け渡しを伴わない融資実務(拘束預金や相殺的決済)において、占有改定等の観念的占有移転による消費貸借の成立を肯定する。改正民法587条(要物契約)の下でも、引渡しの概念に観念的占有移転が含まれることを示す論拠として活用できる。ただし、書面による消費貸借(587条の2)が導入された現代では、合意の存否が主たる論点となることが多い。
事件番号: 昭和27(オ)578 / 裁判年月日: 昭和30年3月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】通謀虚偽表示により賃貸借契約が無効であると認められる場合、契約上の返還義務の不存在確認を求める訴えにおいて、所有権の帰属を判断する必要はなく、契約の無効をもって直ちに義務の不存在を導くことができる。 第1 事案の概要:被上告人(原告)は、上告人(被告)との間で軌条(レール)の賃貸借契約を締結してい…