建築基準法九条一項の規定により除却命令を受けた建築物について代執行による除却工事が完了したときは、右除却命令および代執行令書発付処分の取消を求める訴の利益は失われる。
建築基準法九条一項に基づき除却命令を受けた建築物に対する代執行の完了と右除却命令および代執行令書発付処分の取消を求める訴の利益
建築基準法9条1項,行政事件訴訟法9条
判旨
建築基準法に基づく建築物除却命令等の取消訴訟において、代執行による除却工事が完了した後は、当該処分の取消しを求める訴えの利益は失われる。代執行費用の納付義務を免れる利益があるとしても、それは費用納付命令自体を争うべきものであり、除却命令の取消訴訟を継続する理由にはならない。
問題の所在(論点)
行政代執行による除却工事が完了した後において、当該除却命令および代執行令書発付処分の取消しを求める訴えの利益(行政事件訴訟法9条1項)が認められるか。
規範
取消訴訟の提起には、当該処分の取消しによって回復すべき法律上の利益が必要である(行政事件訴訟法9条1項)。処分の効力が終了し、または処分の目的が達成されたことにより、処分を取り消しても原状回復が不可能となった場合には、原則として訴えの利益は消滅する。他の付随的な不利益を解消する手段が別途存在する場合には、それをもって訴えの利益を基礎づけることはできない。
重要事実
上告人は、建築基準法9条1項に基づき違反建築物の除却命令を受けた。その後、行政庁によって代執行令書が発付され、代執行による除却工事が実施されて完了した。上告人は、当該除却命令および代執行令書発付処分の取消しを求めて訴えを提起し、代執行費用の納付義務を免れる利益があることを理由に訴えの利益を主張した。
あてはめ
本件では、行政代執行による除却工事が既に完了している。この場合、除却命令および代執行令書発付処分の目的は達成されており、処分の効力を取り消すことによって除却前の状態を回復することは事実上不可能である。上告人が主張する「代執行費用の納付義務を免れうる利益」については、費用納付命令という別の処分を対象として争うべき事柄である。したがって、先行する除却命令等の取消しによって回復すべき直接的な利益は存在しないといえる。
結論
除却工事が完了した以上、除却命令等の取消しを求める訴えの利益は失われるため、訴えは却下されるべきである(本件では上告棄却)。
実務上の射程
行政処分の目的が達せられた後の訴えの利益に関するリーディングケースである。代執行が完了すると、原則として処分の取消しを求める訴えの利益は失われる。同様の論理は、拘禁の終了や公務員の罷免後の給与争い(給与支払いを求める訴えを別途提起すべき場合)など、行政救済制度における訴えの利益の有無を判断する際の基準として広く用いられる。
事件番号: 平成3(行ツ)46 / 裁判年月日: 平成5年9月10日 / 結論: 棄却
都市計画法二九条による許可を受けた開発行為に関する工事が完了し、当該工事の検査済証の交付がされた後においては、右許可の取消しを求める訴えの利益は失われる。 (補足意見がある。)
事件番号: 昭和42(行ツ)17 / 裁判年月日: 昭和43年10月29日 / 結論: 棄却
土地区画整理事業による建物移転の直接施行が完了したときは、当該建物の移転通知を争う訴えの利益は失われる。 (参照) 神戸地方昭和四〇年(行ウ)第一八号、昭和四〇年(行ウ)第二〇号昭和四〇年一二月二日判決、行裁集第一六巻一二号二〇二七頁〔一三七〕 大阪高等昭和四一年(行コ)第二号昭和四一年一一月二九日判決、行裁集一七巻一…
事件番号: 昭和58(行ツ)35 / 裁判年月日: 昭和59年10月26日 / 結論: 棄却
建築基準法六条一項による確認を受けた建築物の建築等の工事が完了したときは、右確認の取消を求める訴えの利益は失われる。