憲法七九条による最高裁判所裁判官の任命に関する国民審査の制度は、その実質において、いわゆる解職の制度であるが、任命後初に行なわれる国民審査においては、任命後の解職の可否いかんという形式のもとで、任命についての審査が行なわれるという実質をもち、右審査の制度を解職制度と解したからといつて、なんら最高裁判所の裁判官の任命に国民の意思を反映せしめるという趣旨が失われることにはならない。
憲法七九条による国民審査の制度の趣旨
憲法79条,最高裁判所裁判官国民審査法15条
判旨
憲法79条の最高裁判所裁判官国民審査制度の本質は解職の制度であり、任命後の最初に行われる審査において解職の可否を問う形式で国民の意思を反映させるものである。また、罷免を可とする「×印」以外の投票をすべて罷免を可としないものと扱う仕組みは、憲法の保障する自由や平等を侵害しない。
問題の所在(論点)
憲法79条の国民審査制度の法的性質(任命審査か解職制度か)、および現行の投票方式(不信任のみを表示し、それ以外を信任とみなす方式)が思想・良心の自由(15条、19条、21条等)に違反するか。
規範
憲法79条による国民審査制度は、その実質においていわゆる解職の制度である。任命後最初に行われる審査において、任命後の解職の可否という形式のもとで、任命についての審査を行うという実質を持つものであり、国民の意思を反映させる趣旨に反しない。また、罷免を可とする積極的意思(×印)以外の投票を「罷免を可としない投票」として取り扱うことは、憲法19条、21条等に違反しない。
重要事実
上告人らは、国民審査制度が任命自体の審査であるべきこと、衆議院議員選挙の投票所と国民審査の投票所が一体となっている施設構造が出頭の強制にあたること、および連記された裁判官の一部にのみ罷免の意思を表示しようとする場合に他が白票となる仕組みや×印以外を不罷免として扱う仕組みが違憲であると主張して、本件審査の無効を訴えた。
事件番号: 昭和45(行ツ)118 / 裁判年月日: 昭和47年7月20日 / 結論: 棄却
一、憲法七九条による最高裁判所裁判官の任命に関する国民審査の制度は、その実質において、いわゆる解職の制度であるが、任命後最初に行なわれる国民審査においては、任命後の解職の可否いかんという形式のもとで、任命についての審査が行なわれるという実質をもち、右審査の制度を解職制度と解したからといつて、なんら最高裁判所の裁判官の任…
あてはめ
まず、国民審査の本質は解職制度であり、任命後の総選挙時に解職の可否を問う形式でも国民の意思は十分に反映される。次に、投票所の構造については、投票人の便宜のためのものであり、審査の投票をしないまま退出することを妨げるような強制措置や投票用紙の受領・投入の強制が認められない以上、出頭の強制には当たらない。さらに、複数名の裁判官が連記された投票用紙において、一部にのみ×印を付すことで他が白票(罷免を可としない投票)となる点や、×印以外を信任扱いとする点は、罷免の意思がない限り現職を維持させる解職制度の性質上、合理的であり、自由な意思表示を侵害するものとはいえない。
結論
最高裁判所裁判官国民審査制度は解職制度としての性格を有するものであり、現行の投票方式および運用は憲法79条、19条、21条等に違反せず、本件審査は有効である。
実務上の射程
最高裁裁判官の国民審査に関するリーディングケース。憲法上の権利の制約が問題となる場面(特に19条や15条)において、制度の趣旨・目的(解職制度という性質)から手段の合理性を肯定する枠組みとして活用できる。罷免のみを表示させる「不信任投票制」の合憲性を導く際の直接の根拠となる。
事件番号: 昭和39(行ツ)107 / 裁判年月日: 昭和40年9月10日 / 結論: 棄却
一 憲法第七九条第二項所定の国民審査につき、最高裁判所裁判官国民審査法が、これを解職投票としてその手続を規定したことは、右憲法の条項に違反するものではない。 二 (昭和二七年二月二〇日大法廷判決、民集六巻二号一二二頁参照) 三(補足意見がある)
事件番号: 昭和24(オ)332 / 裁判年月日: 昭和27年2月20日 / 結論: 棄却
一 最高裁判所裁判官任命に関する国民審査の制度は、国民が裁判官を罷免すべきか否かを決定する趣旨であつて、裁判官の任命を完成させるか否かを審査するものではない。 二 最高裁判所裁判官国民審査法は、憲法第七九条、第一九条、第二一条に違反しない。 三 最高裁判所裁判官国民審査の審査公報には、裁判官の取り扱つた裁判上の意見を具…
事件番号: 昭和33(オ)100 / 裁判年月日: 昭和35年4月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】最高裁判所裁判官国民審査は、一種の解職投票制度であり、罷免を可とするか否かを審査するものであるから、罷免を可としない場合に何も記入せず投票する形式(自書不要方式)は憲法に合致する。 第1 事案の概要:上告人は、国民審査において「罷免を可としない」場合に何も記入せず投票させる現行法(国民審査法等)の…
事件番号: 昭和43(行ツ)92 / 裁判年月日: 昭和44年7月15日 / 結論: 棄却
いわゆる選挙の人的一部無効が認められるのは、公職選挙法二〇五条一項により選挙の地域的一部無効を生じ、その結果、同条二項以下の規定により選挙の人的一部無効を生ずる場合に限る。