原判示の事実関係のもとにおいて、賃貸マーケット等の用に供する建物の建築工事請負契約に基づく残代金債権の弁済期はその建物にマーケットの賃借人が充員した時に到来し、右残代金債権の消滅時効はその時から進行を開始したとする原審の認定判断には、審理不尽・理由不備の違法がある。
請負代金債権の消滅時効の起算日の認定判断に審理不尽・理由不備の違法があるとされた事例
民法166条1項,民法170条2号,民法633条,民訴法185条,民訴法395条1項6号
判旨
支払を一定の事実の発生まで猶予する旨の特約は、本来の弁済期の到来後に猶予期間を与えるものにすぎず、本来の弁済期前にその事実が発生しても弁済期は到来しない。また、代金額の確定や具体的な支払時期の合意を前提とする場合、これらが未了の段階で消滅時効の起算点となる弁済期の到来を認めることはできない。
問題の所在(論点)
支払猶予の特約がある場合や、代金額・支払時期の具体的合意が未了である場合において、民法166条1項(旧法)の消滅時効の起算点となる「弁済期」をいかに解釈すべきか。
規範
消滅時効の起算点となる「権利を行使することができる時」(民法166条1項)とは、弁済期の到来を指す。支払を特定の事実が発生するまで猶予する旨の特約がある場合、それは本来の弁済期の到来を前提とした猶予期間の定めにすぎず、特約上の事実発生時が直ちに権利行使の始期となるわけではない。また、契約当事者が代金額の具体的な算定方法や支払時期を協議で決定する旨を合意している場合、その決定手続や合意の内容に照らして客観的に弁済期を判断すべきである。
重要事実
請負人Aは、注文者Bとの間で建物建築工事請負契約を締結した。当初、支払時期は「工事完成時」とし、具体的期日等は協議して決定する合意があった。その後、設計変更により代金額が「実費+1割」へ変更されたが、具体的金額の確認や協議は未了であった。また、Bの資金繰りのため「賃借人が充員するまで支払を猶予する」旨の特約がなされた。賃借人は昭和34年11月2日に充員したが、工事の全部終了は同年12月であった。Bは11月2日を消滅時効の起算点として時効を援用した。
あてはめ
第一に、賃借人充員時までの支払猶予特約は、本来の弁済期が到来しても充員していない場合に支払を待つ趣旨であり、工事完成(12月)前の充員時(11月2日)を弁済期と解するのは不自然である。第二に、代金額が実費精算方式に変更された際、Bが具体的な金額を確認していない段階で弁済義務を負わせるのは不当である。第三に、当初の「工事完成時に協議して決定する」との合意が変更された形跡がない以上、協議等を経ていない段階で時効が進行を開始したと解することは、契約上の合意の解釈を誤るものである。したがって、充員時をもって時効の起算点とした原審の判断は、民法166条1項の解釈を誤り、審理不尽・理由不備があるといえる。
結論
残代金債権の弁済期が賃借人の充員時に到来し、その時から消滅時効が進行を開始したと解することはできない。
実務上の射程
不確定期限や条件、あるいは支払猶予の特約がある事案において、形式的に特約の事由が発生したことのみをもって時効の起算点と判断せず、契約本来の目的や代金額確定のプロセスの合理性を重視する。実務上は、請負代金の精算事務が未了の段階で時効を進行させないための論拠として活用できる。
事件番号: 昭和32(オ)223 / 裁判年月日: 昭和33年5月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】請負契約において、工事の早期完成を目的として定められた竣工期限厳守の合意は、期限内に完成した場合には謝礼金を支払い、遅延した場合には一日ごとに一定額を支払うという特約として有効に成立する。 第1 事案の概要:被上告人はダム建設により居宅を失い移住したが、移住先で飲食店を営むため急遽家屋を建築する必…