民法一六二条二項の一〇年の取得時効を主張するものは、その不動産を自己の所有と信じたことにつき無過失であつたことの立証責任を負う(最高裁昭和四三年(オ)第八六五号同年一二月一九日第一小法廷判決、裁判集(民事)九三号七〇七頁参照)。
民法一六二条二項の一〇年の取得時効と無過失の立証責任
民法162条2項
判旨
民法162条2項に基づく短期取得時効の成立を主張する者は、占有開始時において自己に所有権があると信じたことについて、無過失であったことの立証責任を負う。
問題の所在(論点)
民法162条2項の短期取得時効の要件である「善意無過失」のうち、「無過失」に関する立証責任は、時効の成立を主張する者と、これを争う者のいずれが負うべきか。
規範
民法162条2項の10年の取得時効を主張する者は、当該不動産の占有開始の時点において、自己に所有権があるものと信じたこと(善意)、およびそう信じるにつき過失がなかったこと(無過失)について、自ら立証責任を負う。
重要事実
上告人らは、亡Dが昭和23年末以降に対象不動産を占有していた事実に加え、贈与を受けた事実等を根拠として所有権の取得時効(民法162条2項)を主張した。しかし、原審は贈与の事実を否定し、所有の意思に基づく占有(自主占有)も認められないとした。さらに、亡Dが自己の所有と信じたことについて無過失であったとは認められないと判断したため、上告人らがこれに反論して上告した。
あてはめ
民法186条1項は「善意」については推定規定を置いているが、「無過失」については何ら規定していない。したがって、短期取得時効による権利取得を主張して法的な効果を享受しようとする者は、その要件となる「無過失」の事実を自ら証明しなければならない。本件では、亡Dの占有開始時における無過失を裏付ける事実が認められず、むしろ原審が認定した諸事情に照らせば無過失とはいえないため、要件を欠くと判断される。
結論
短期取得時効における無過失の立証責任は、時効取得を主張する側にある。本件では無過失の立証がなされていないため、時効取得は認められない。
実務上の射程
短期取得時効(162条2項)の主張において、善意は186条1項で推定されるため相手方が悪意を立証すべきだが、無過失は推定されない。答案上、短期取得時効の成否を論じる際は、主張立証責任が時効主張者側にあることを明記した上で、占有開始時の具体的態様から過失の有無を検討する必要がある。
事件番号: 昭和44(オ)147 / 裁判年月日: 昭和44年12月11日 / 結論: 破棄差戻
所有権に基づいて不動産を占有する者についても民法一六二条の適用があることは当裁判所の判例とするところであつて、上告人が取得時効を主張する土地が、上告人(取得時効援用者)において所有権に基づき占有する土地にあたるとしても、取得時効の成否に影響はない。
事件番号: 昭和40(オ)766 / 裁判年月日: 昭和42年7月21日 / 結論: 棄却
耕地整理施行中の未登記の残地を買い受けた者が、耕地整理組合について調査することなく、売主の右土地は自己の所有であるとの言を信じてその占有を始めたとしても、右売主が真の所有者の実父であり、同人がこれを管理していた等原審認定の事実(原判決および引用の第一審判決参照)の下においては、右買主がその所有権を取得したと信じたことに…
事件番号: 昭和39(オ)720 / 裁判年月日: 昭和42年6月20日 / 結論: 棄却
占有の開始は相続によるもので取引によるものではなくその他判示事実関係のもとにおいては土地登記簿を調査しなかつたことをもつて占有のはじめ過失があつたとすることはできない。(本件は、昭三七、五、一八、二小法廷判決集一六巻五号一〇七三頁の再上告事件である。)