一、建物の無断転借人が、賃借人およびその親族らにより税務対策上設立された有限会社で、同一営業を継続し建物の使用状況に変更がないなど原判示の事実関係(原判決理由参照)のもとにおいては、転貸借につき、賃貸人に対する信頼関係を破壊するものと認めるに足りない特段の事由があり、これを理由とする賃貸借契約の解除は許されない。 (大隅裁判官の意見がある。転借人の法人格は形骸にすぎず、転貸借はない旨。) 二、建設業者たる賃貸人は、賃貸建物を取りこわして社屋等を建設する計画を有するが、その建設が営業上不可欠というわけではなく、他方、賃借人は、他に生活維持の手段を有するが、賃借建物で営む食肉販売業を最も主要な収入源とし、右建物の立地条件はその営業上重要なものであり、これと同等の収益を得られる移転先を求めることは困難な状況にあつて、賃貸人の申し出た五〇〇万円の立退料の支払をもつてしてもこれを補うに足りないなど原判示の事実関係(原判決理由参照)があるときは、賃貸人のした賃貸借解約の申入れには正当の事由があるものとは認められない。
一、建物の無断転貸借に信頼関係を破壊すると認めるに足りない特段の事由があるとされた事例 二、建物賃貸借の解約申入れに正当の事由がないとされた事例
民法612条,借家法1条ノ2
判旨
賃借人が個人経営の事業を会社組織に改め、当該会社に賃借物を使用させた場合でも、当事者間の信頼関係を破壊すると認めるに足りない特段の事情があるときは、民法612条2項に基づく解除は認められない。
問題の所在(論点)
賃借人が個人営業を法人格のある会社組織に変更し、当該会社に物件を使用させた場合に、民法612条2項に基づく無断転貸・譲渡を理由とする解除が認められるか。
規範
民法612条2項に基づく解除権は、賃借人の行為が賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情がある場合には、発生しないと解するのが相当である。
重要事実
賃借人B1は、建物賃貸人である上告人から建物を借り受け肉屋を経営していたが、税務対策として有限会社B2を設立し、以後その会社名義で営業を行った。B2はB1が代表を務め、社員も親族に限られ、建物の使用状況や営業の実体は個人経営時代と全く同一であった。これに対し、賃貸人は無断転貸を理由に賃貸借契約を解除した。
あてはめ
本件では、B1とB2の間で形式上は転貸借が成立したといえる。しかし、会社設立はもっぱら税務対策を目的としたものであり、経営の実権は依然としてB1が握り、営業の規模・内容・建物の使用状況にも格別の変化は認められない。そうであれば、法人格は形式的なものにすぎず、実質的には賃借人本人が継続して使用しているのと同視できる。したがって、本件転貸は賃貸人に対する信頼関係を破壊するものと認めるに足りない「特段の事情」があるといえる。
結論
本件転貸借を理由とする賃貸借契約の解除は許されない。上告人の請求は棄却される。
実務上の射程
信頼関係破壊の法理を無断転貸(民法612条2項)に適用した典型例である。答案上は、まず形式的な転貸・譲渡の成立を認めた上で、実質的な当事者の同一性や使用状況の変化の有無を検討し、「背信性を否定する特段の事情」を論証する際に活用すべきである。
事件番号: 昭和29(オ)446 / 裁判年月日: 昭和31年7月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法612条2項に基づく解除権の行使には、解除時に信頼関係を裏切る程度の無断転貸が存在することを要するが、その判断にあたっては、転貸の外形のみならず、賃借人の従前の行為等の諸般の事情を勘案できる。 第1 事案の概要:賃借人A2は、本件家屋の賃料が月額253円であった当時、二階の一室を月額1000円…