省略
公立学校の教員につき給与過払による不当利得返還請求権を自働債権としその後に支払われる給与の支払請求権を受働債権としてした相殺が労働基準法二四条一項本文の規定に違反し許されないとされた事例
労働基準法24条1項本文,民法505条1項,地方公務員法25条1項
判旨
賃金過払による不当利得返還請求権を自働債権とする相殺は、過払と合理的に接着した時期になされ、かつ労働者の経済生活を脅かさない場合に限り、労働基準法24条1項の例外として許容される。
問題の所在(論点)
賃金の過払分を後の賃金から控除(相殺)することが、労働基準法24条1項の全額払の原則に抵触しないための要件が問題となる。
規範
賃金過払による不当利得返還請求権を自働債権とし、その後に支払われる賃金を受働債権として相殺することは、①過払のあった時期と賃金の清算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期になされ、②その金額・方法等が労働者の経済生活の安定を脅かすおそれのないものである場合に限り、労働基準法24条1項本文の「全額払の原則」の例外として許される。この判断は、同規定の法意を害さぬよう、慎重かつ厳格になされるべきである。
重要事実
教育公務員である被上告人らが、昭和33年5月7日に勤務しなかったにもかかわらず、当局は同月21日に1日分の給与を含めて全額支給した。その後、教育委員会は5月末には欠勤の実態を把握し、翌6月分の給与から減額することも可能であったが、組合の圧力や他自治体の動向を静観した結果、同年8月21日の給与から当該欠勤分を減額(相殺)した。
あてはめ
本件における相殺(減額)は、5月の過払に対し8月の給与で行われており、時期の検討が必要である。教育委員会は5月末には欠勤を把握しており、事務的に翌6月分の給与で清算することが可能であった。それにもかかわらず、組合への対応や調査研究を理由に8月まで遅延させたことは、清算調整の実を失わない程度に「合理的に接着した時期」になされたものとはいえない。したがって、本件相殺は全額払の原則の例外を認めるべき厳格な要件を満たさない。
結論
本件給与減額は、合理的に接着した時期になされたものとはいえず、労働基準法24条1項に違反し、無効である。
実務上の射程
調整的相殺の適法性を判断するリーディングケース。答案では「全額払の原則」に触れた上で、本判例の2要件(合理的接着性・経済的生活への配慮)を提示し、特に「時期の接着性」については事務上の処理可能性という観点から厳格に判断する姿勢を示す必要がある。
事件番号: 昭和42(行ツ)61 / 裁判年月日: 昭和45年10月30日 / 結論: 棄却
一、賃金過払による不当利得返還請求権を自働債権とし、その後に支払われる賃金の支払請求権を受働債権としてする相殺は、過払のあつた時期と賃金の清算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期においてなされ、しかも、その金額、方法等においても労働者の経済生活の安定をおびやかすおそれのないものである場合にかぎり、労働基準法二四…