請求原因事実または抗弁事実の存否に争いがある場合に、裁判所が右主張事実を証拠上肯認することができない事情として、右事実と両立せず、かつ、相手方に主張責任のない事実を認定し、もつて右請求原因事実または抗弁事実の立証なしとして排斥することは、認定された事実が当事者によつて主張されていない場合でも、弁論主義に違反しない。
当事者の一定の主張を排斥するために当事者から主張されない他の事実を認定することと弁論主義
民訴法186条
判旨
裁判所が、当事者の主張する請求原因または抗弁の立証を否定するために、その主張事実と両立しない別個の事実を認定して立証がないと判断することは、当該事実が当事者により主張されていなくても弁論主義に違反しない。
問題の所在(論点)
当事者が主張していない「相手方の主張事実と両立しない事実」を、裁判所が証拠に基づき認定して相手方の主張を排斥することが、弁論主義(第1テーゼ:主張のない事実を判決の基礎にできない)に抵触するか。
規範
裁判所が当事者の主張しない事実を基礎に請求を認容し、または抗弁を採用することは弁論主義に違反する。しかし、当事者が主張する主要事実を証拠上肯定できない場合に、その事実と両立せず、かつ相手方に主張立証責任のない「間接事実」ないし「補助事実」を認定し、それをもって主要事実が立証されていないと判断することは、弁論主義に違反しない。なぜなら、主張者が受ける不利益は自己の主張事実の立証失敗によるものであり、別個の事実が認定されたことの直接の結果ではないからである。
重要事実
上告人は、訴外Dが被上告人に対し、本件手形金債権によって担保された原因債権の弁済をしたと主張した(弁済の抗弁)。これに対し原審は、Dが金員を支払った事実は認めたものの、その金員はDが別途負担していた50万円の借入金債務の内入れ弁済として支払われたものであると認定した。その結果、本件債務の弁済であるとの上告人の主張は立証を欠くとして、弁済の抗弁を排斥した。上告人は、この「別口債務への弁済」という事実が当事者から主張されていないため、弁論主義に違反すると主張して上告した。
あてはめ
上告人は、Dの給付が本件原因債務の履行としてなされたことを立証する責任を負う。原審は、支払われた金員が別口の借入金債務への弁済であったという事実を認定したが、これは本件債務の弁済という上告人の主張事実を否定するための理由(間接事実)にすぎない。このような認定は、上告人が負うべき本件債務の弁済という主要事実の立証を妨げる事情を示すものであり、上告人の抗弁が認められないのは、あくまで本件債務への弁済という事実が証明されなかったからである。したがって、裁判所がこの事実を職権で認定しても、主要事実の存否を判断する過程として許容される。
結論
裁判所が主張のない間接的な事実を認定して、当事者の主張する主要事実を排斥しても弁論主義違反とはならないため、本件上告を棄却する。
実務上の射程
弁論主義の適用範囲が主要事実に限られ、間接事実や補助事実には及ばないことを示す典型判例である。答案上は、裁判所が当事者の主張と異なる経緯等を認定して請求を棄却した場面で、それが「主要事実そのものの認定」なのか「主要事実を否定するための間接事実の認定」なのかを区別する際に用いる。
事件番号: 昭和26(オ)416 / 裁判年月日: 昭和28年5月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】当事者が口頭弁論において相手方の主張した事実を明確に認めた場合、裁判所は当該事実を裁判の基礎としなければならず、これに反する判断をすることはできない。 第1 事案の概要:上告人と被上告人の間の約束手形請求事件において、上告人は原審(控訴審)の口頭弁論期日で、被上告人が主張する本件手形の呈示があった…