甲が、乙との間に、農地法五条所定の知事の許可を条件として乙所有の農地を買い受ける契約をし、これに基づいて所有権移転請求権保全の仮登記を経由し、次いで右売買契約上の買主たる地位を丙に譲渡して、右仮登記につき丙への移転の附記登記をした場合において、丙が、右譲渡につき乙の承諾を得、乙との間に、乙において丙のため宅地転用の許可申請手続をなすべく、許可があつたときは丙に所有権移転登記手続をする旨の合意をしたときは、右合意は有効であり、これに基づく丙の権利は、当初の甲乙間の売買契約に基づいて成立したものとして、右仮登記により保全されているものと解すべきである。
農地の売主と買主の地位の譲受人との間における知事の許可申請手続等に関する合意が有効とされた事例
農地法3条,農地法5条,不動産登記法7条,不動産登記法105条
判旨
農地法上の許可を条件とする売買契約において、買主の地位が譲渡され売主がこれを承諾した場合、新買主は元の仮登記を流用して自己への本登記を請求できる。
問題の所在(論点)
農地法上の許可を条件とする売買契約において、買主の地位が譲渡された場合、新買主は旧買主名義の仮登記(および附記登記)を利用して、後順位者に対し本登記手続への承諾を請求できるか。仮登記によって保全される債権の同一性が認められるかが問題となる。
規範
売買契約上の買主の地位が譲渡され、売主がこれを承諾した場合には、旧買主の有していた契約上の権利と同一性が維持されたまま新買主へ移転する。この場合、新買主が取得した権利は、旧買主名義で経由されていた所有権移転請求権保全の仮登記(およびその附記登記)によって保全されるものと解するのが相当である。
重要事実
売主EはDに対し、農地法5条の許可を条件として土地を売却し、D名義の所有権移転請求権保全の仮登記がなされた。その後、Dは買主の地位を被上告人に譲渡し、仮登記について被上告人への権利移転の附記登記を経由した。売主Eはこの譲渡を承諾し、被上告人との間で改めて許可申請および本登記手続の合意をしたが、これは実質的にDから譲り受けた地位を確実にする趣旨であった。その後、被上告人は許可を条件として、Eの相続人および後順位の利害関係人である上告人らに対し、仮登記に基づく本登記手続等を求めた。
事件番号: 昭和40(オ)1226 / 裁判年月日: 昭和42年8月25日 / 結論: 棄却
売主の支払停止前になされた農地の売買について、知事の許可がなかつたため、買主において右支払停止後破産申立前に所有権移転請求権保全の仮登記を経たが、破産宣告が右仮登記後一年を超えてなされたときは、右仮登記についてもはや破産法第七四条第一項による否認をしえなくなり、買主は、右仮登記に基づいて、破産管財人に対し知事の許可を条…
あてはめ
本件において、被上告人はDから買主の地位を譲り受けるに際し、売主Eの承諾を得ている。これにより、Eと被上告人との間には直接に権利移転の合意が成立したといえる。この合意は、もともとのE・D間の売買契約に基づく権利義務をそのまま承継させたものにほかならない。したがって、被上告人のEに対する請求権は、もともとDが有していた契約上の権利と同一のものと認められる。そうであれば、当該権利はDが経由し被上告人へ附記登記された仮登記によって引き続き保全されていると評価できる。
結論
被上告人は、知事の許可を条件として、Eの相続人に対し仮登記に基づく本登記手続を求めることができ、また後順位の利害関係人に対し本登記への承諾を請求することができる。
実務上の射程
契約上の地位の譲渡に伴う仮登記の流用に関する重要判例である。債権譲渡だけでなく「契約上の地位の譲渡」という構成をとることで、保全される債権の同一性を肯定し、実務上、仮登記の順位保全効を新買主に維持させる理論構成として活用できる。
事件番号: 昭和45(オ)1201 / 裁判年月日: 昭和46年4月6日 / 結論: 棄却
農地の買主が目的農地を転売した場合に、転買人が当初の売主に対して直接農地法五条所定の知事に対する許可申請手続を求めることは許されない。
事件番号: 昭和39(オ)183 / 裁判年月日: 昭和41年9月20日 / 結論: 破棄差戻
一たん適法に提出された農地法第五条所定の知事に対する許可申請書が、原判決判示(本判決理由参照)のような実際上の理由から便宜的に返戻され、手続上は申請の任意撤回として処理された場合には、いまだ売買の法定条件不成就が確定したものとはいえず、売主は、再度許可申請手続をして知事の正式な許否の処分を求めることに協力する義務を免れ…
事件番号: 昭和42(オ)1415 / 裁判年月日: 昭和43年6月21日 / 結論: 棄却
農地法第五条の知事の許可を要する農地の売買契約で解約手附が授受された場合において、売主および買主が連署のうえ同条による許可申請書を知事あてに提出したときは、特約その他特別の事情のないかぎり、売主および買主は、民法第五五七条第一項にいう「契約ノ履行ニ著手」したものと解すべきである。
事件番号: 昭和44(オ)486 / 裁判年月日: 昭和47年7月6日 / 結論: その他
登記簿上後順位の抵当権者またはいわゆる仮登記担保権者であつた者でも、先順位の仮登記担保権者から不動産登記法一〇五条に基づく本登記手続承諾請求を受けた当時、すでに他にその登記につき附記登記による権利移転の登記を経由した者は、特段の事情のない限り、登記原因たる実体上の権利に基づき、仮登記担保権者に対して清算金を受けるべき地…