建物の従前の賃借人が、賃借中支出した費用の償還を請求するためその建物につき留置権を行使した場合には、賃借中と同一の態様をもつて建物の占有・使用を継続することは、特段の事情のないかぎり、留置権に基づく適法な行為と解すべきである。
建物の賃借人が賃貸借終了後に右建物につき留置権を行使した場合に建物の使用を継続することができるか
民訴法298条2項
判旨
建物の賃借人が費用償還請求権に基づき留置権を行使し、従前と同一の態様で建物の占有・使用を継続することは、特段の事情がない限り、保存に必要な使用(民法298条2項但書)として適法である。
問題の所在(論点)
建物の留置権者が、従前の賃貸借契約に基づいていたのと同様の態様で継続して建物を使用することが、民法298条2項但書にいう「保存に必要な使用」に該当し、不法行為を構成しないといえるか。
規範
留置権者は留置物の保存に必要な範囲で使用をすることができる(民法298条2項但書)。建物の従前の賃借人が費用償還請求権に基づき留置権を行使する場合、従前の賃貸借契約に基づく占有と同一の態様で継続して占有・使用することは、特段の事情のない限り、右保存に必要な範囲内として適法な権原に基づくものと解するのが相当である。
重要事実
建物の賃借人(被上告人)は、建物について支出した費用の償還を請求するため、建物につき留置権を行使した。被上告人は、留置権行使中も従前の貸借中と同一の態様をもって建物の占有・使用を継続していた。これに対し、建物所有者(上告人)が、右占有・使用を権原に基づかない不法占有であると主張して損害金の支払いを求めた。
あてはめ
本件において、被上告人が留置権の行使として行う建物の占有・使用は、従前の賃貸借契約時と態様を異にするものではない。また、その他に保存に必要な範囲を超えた使用がなされている事実は主張立証されていない。したがって、この占有・使用は留置権者の権原の範囲内における適法な行為であり、権原に基づかない不法な占有とは認められない。不法行為が成立しない以上、不法占有を理由とする損害金請求は認められない。
結論
被上告人の占有・使用は適法な留置権の行使の範囲内であり、不法行為は成立しない。したがって、損害金請求を排斥した原審の判断は正当である。
実務上の射程
本判決は、建物留置権者の継続的使用が不法行為(民法709条)を構成しないことを示したものである。もっとも、本判決は損害賠償責任を否定するにとどまり、実質的利益を得ている場合の不当利得返還義務(民法703条)まで否定するものではない点に注意が必要である(最判昭38・12・25参照)。
事件番号: 昭和25(オ)272 / 裁判年月日: 昭和30年10月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃借人が土地に施した地盛費の償還請求権(民法295条1項)は土地に関して生じた債権であるが、建物明渡請求に対してこれを行使し、建物の明渡を拒絶することはできない。 第1 事案の概要:上告人(賃借人)は、被上告人(賃貸人の承継人)から本件建物の明渡を求められた。これに対し、上告人は賃借土地に施した「…