原審が、上告人(被告)の証人申請を採用したうえ、前後四回にわたつて同人に対して呼出状を送付し、その間同人が正当な事由なく出頭しないことを理由として過料三、〇〇〇円に処する旨の決定をもしているにかかわらず、同人が出頭しなかつたため、ついに右採用決定を取り消して審理を終結したものであるときは、かりに右証人が上告人の申し出た唯一の証拠方法であつても、これを取り調べることなく審理を終結した原審の手続には、何らの違法もない。
唯一の証拠方法を取調べなくても違法でないとされた事例
民訴法259条
判旨
裁判所が証人採用の決定をした後、証人が正当な事由なく重なる呼出しに応じない場合には、たとえそれが唯一の証拠であっても、採用決定を取り消して審理を終結させることは適法である。
問題の所在(論点)
裁判所が一度採用を決定した証人が、正当な理由なく呼出しに応じない場合、当該証人が唯一の証拠であっても、証拠調べを行わずに採用決定を取り消して審理を終結させることは許されるか(職権証拠調べの要否および訴訟指揮権の限界)。
規範
裁判所は、証拠調べの申出を採択した後であっても、証人が正当な事由なく出頭を拒絶し、将来における証拠調べの実施が困難であると認められる場合には、裁判所の訴訟指揮権に基づき、証拠採用の決定を取り消して審理を終結させることができる。これは、当該証拠が当事者の主張を立証するための「唯一の証拠」である場合であっても同様である。
重要事実
上告人の申請により証人採用の決定がなされた。原審は、当該証人に対して前後4回にわたり呼出状を送付し、正当な理由のない不出頭を理由として過料3,000円に処する決定も行った。しかし、当該証人は依然として出頭しなかったため、原審は採用決定を取り消して審理を終結させた。上告人は、当該証人が唯一の証拠方法であるとして、証拠調べを行わないまま審理を終結した手続の違法を主張した。
あてはめ
本件において、裁判所は4回もの呼出しを行い、過料という制裁措置まで講じて証人の出頭を促している。それにもかかわらず証人が出頭しないという事情は、証拠調べの実施が客観的に困難な状況に至っていることを示す。このような状況下では、迅速な裁判を実現すべき訴訟指揮の観点から、証拠採用の決定を維持し続ける必要はない。したがって、たとえ唯一の証拠であっても、証拠調べを断念して審理を終結させることに違法は認められない。
結論
本件審理の終結手続に違法はなく、上告は棄却される。
実務上の射程
民事訴訟における「唯一の証拠」の取り扱いに関する基本判例である。裁判所は原則として唯一の証拠の申出を却下できないとされるが、本判決は、採用後の証人の不協力や証拠調べの実行不可能性といった事情がある場合には、訴訟指揮権に基づく取消しが可能であることを示している。答案上は、証拠調べの必要性と訴訟遅延の回避のバランスを論じる際の論拠として活用できる。
事件番号: 昭和37(オ)425 / 裁判年月日: 昭和38年6月6日 / 結論: 棄却
当事者の申し出た証拠方法については、唯一の証拠方法の場合を除き、審理の経過からみて必要がないと認めるときは、その取調べを要しない。