建物につき改造がされ、物理的変化が生じた場合における建物の同一性の有無については、新旧の建物の材料、構造、規模等の異同に基づき社会観念に照らして判断すべきであり、右建物の物理的変化の程度によつては、新旧の建物の同一性が失われることもありうる。
建物の改造によるその物理的変化と新旧建物の同一性の有無
民法86条1項
判旨
建物の改造により物理的変化が生じた場合、新旧建物の同一性は材料、構造、規模等の異同に基づき社会観念に照らして判断される。同一性が失われた場合、旧建物の賃貸借契約の解除を理由に新建物の明渡しを求めることはできない。
問題の所在(論点)
建物に大規模な改造が施された場合において、賃貸借の目的物たる建物の同一性が維持されているか否かの判断基準、および同一性が喪失した場合における旧契約に基づく明渡し請求の可否。
規範
建物に改造が施され物理的変化が生じた場合、新旧の建物の同一性が失われたか否かは、新旧建物の材料、構造、規模等の異同に基づき、社会観念に照らして判断すべきである。物理的変化の程度によっては同一性が失われ、旧建物が滅失して新建物が生じたと解される余地がある。
重要事実
賃貸人(被上告人)が賃借人(上告人)に対し建物を賃貸していたところ、当該建物に改造が施され物理的変化が生じた。賃貸人は、賃料不払を理由に賃貸借契約を解除したとして、建物の明渡しを求めた。原審は、改造による物理的変化のいかんにかかわらず建物としての同一性は失われないと判断し、賃貸人の請求を認容した。
あてはめ
本件では建物の改造により物理的変化が生じているが、原審はその具体的程度を審理していない。材料、構造、規模等の異同を社会観念に照らして検討した結果、もし旧建物が滅失し新建物が生じたと評価される場合には、旧建物の賃貸借契約を解除しても、当然に新建物の明渡しを求めることはできない。新建物について新たな賃貸借契約が成立した等の事情がない限り、旧契約の解除による効果は新建物には及ばない。
結論
建物の同一性が失われている可能性がある場合、旧建物の賃料不払を理由に旧賃貸借契約を解除しても、新建物の明渡しを求めることはできない。したがって、同一性の有無を審理せずに請求を認めた原判決には審理不尽の違法がある。
実務上の射程
賃貸借契約の目的物の「同一性」に関するリーディングケースである。答案上は、増改築が行われた際の契約の存続や建物収去土地明渡請求の場面で、物権的・債権的基礎が維持されているかを論じる際の判断枠組み(材料・構造・規模等+社会観念)として活用する。
事件番号: 昭和44(オ)508 / 裁判年月日: 昭和46年7月1日 / 結論: 棄却
家屋賃借人がその敷地に家屋を無断築造した場合であつても、現在の家主が賃貸人となつた当時、すでに右賃借人が地主の承諾をえて敷地の一部に約三坪の居宅兼物置を築造しており、その後約一二年をへて、右賃借人が右居宅兼物置を撤去した跡にそれと面積、位置をほぼ同じくして、木造トタン葺板壁の簡単な構造の作業場を新築したにすぎず、右新築…