不動産の賃借人が賃貸人から当該不動産を譲り受けながらその旨の所有権移転登記を経由していない間に、第三者が右賃貸人から右不動産を譲り受けてその旨の所有権移転登記を経由したため、前の譲受人である賃借人において右不動産の所有権取得を後の譲受人である第三者に対抗することができなくなつた場合には、いつたん混同によつて消滅した右賃借人の賃借権は、第三者が所有権を取得すると同時に、同人に対する関係では消滅しなかつたことになるものと解するのが相当である。
不動産の賃借人が賃貸人から当該不動産を譲り受けたのち第三者が右賃貸人からこれを譲り受けてさきに所有権移転登記を経由した場合と民法五二〇条の規定の適用関係
民法177条,民法520条,民法601条
判旨
不動産の賃借人が賃貸人から当該不動産を譲り受け、混同により賃借権が一旦消滅したとしても、後に第三者が所有権移転登記を経由して所有権取得を対抗してきた場合、賃借権は当該第三者との関係で復活する。
問題の所在(論点)
不動産の譲受人(賃借人)が、二重譲渡の対抗問題(民法177条)に敗れて所有権を失った場合、混同(民法179条1項)により消滅したはずの賃借権が、所有権者となった第三者に対して復活するか。
規範
不動産の賃借人が当該不動産の所有権を取得した場合、民法179条1項本文により賃借権は混同によって消滅するのが原則である。しかし、後の譲受人が所有権移転登記を備えたことで、先の譲受人(賃借人)が所有権取得を対抗できなくなった場合には、一たん混同によって消滅した賃借権は、第三者が所有権を取得すると同時に、当該第三者に対する関係では消滅しなかったものと解する。
重要事実
不動産の賃借人が賃貸人から当該不動産を買い受け、所有権を取得した。しかし、当該賃借人が所有権移転登記を経由していない間に、賃貸人は同一の不動産を別の第三者(上告人)にも譲渡し、その第三者が先に所有権移転登記を完了した。このため、元の賃借人は第三者に対して所有権の取得を対抗できなくなった。
事件番号: 昭和37(オ)904 / 裁判年月日: 昭和40年12月21日 / 結論: その他
一 甲が地主丙から賃借中の土地上に所有する家屋を乙に贈与し、右事実を前提として、甲もみずから責任を持つ旨口添をして乙丙間に該土地の賃貸借契約が締結され、爾来その関係が九年余にわたつて継続してきた等判示のような事実があつたとしても、丙が右家屋を甲から買い受けてその旨の移転登記を経由するまでの経緯について判示の事情があると…
あてはめ
本件では、賃借人が不動産を譲り受けた時点で、形式的には所有権と賃借権が同一人に帰属し混同が生じている。しかし、その後第三者が先に登記を備えたことで、賃借人は自らの所有権取得を第三者に主張できなくなった。このとき、賃借権まで消滅したとすると、賃借人は所有権も賃借権も失うという著しく不利益な結果となる。したがって、対抗要件を備えた第三者との関係においては、混同の例外として賃借権は消滅せず、存続していたものとみなされる。
結論
第三者が所有権を取得すると同時に、賃借人の賃借権は当該第三者に対する関係で復活(存続)する。したがって、賃借人は引き続き賃借権に基づき当該不動産を使用できる。
実務上の射程
二重譲渡における先譲受人が賃借人であった場合の保護を図る法理である。混同の例外(179条1項但書)の法意を拡張し、第三者の権利を害さない範囲で「後発的な復活」を認めたものとして、登記未了の譲受人を救済する文脈で使用する。
事件番号: 昭和42(オ)268 / 裁判年月日: 昭和43年10月29日 / 結論: 棄却
甲から不動産所有権の譲渡を受けた乙が、所有権取得登記未経由のまま、右不動産を丙に譲渡したのち、かさねてこれを丁に譲渡した場合において、丙は、自己の所有権取得登記を経由しないかぎり、その所有権取得を丁に対抗することができない。
事件番号: 昭和44(オ)212 / 裁判年月日: 昭和47年4月20日 / 結論: その他
売買契約の目的物である不動産の価格が売主の所有権移転義務の履行不能後も騰貴を続けているという特別の事情があり、かつ、履行不能の際に売主がそのような特別の事情の存在することを知つていたかまたはこれを知りえた場合には、買主が右不動産を転売して利益を得るためではなくこれを自己の使用に供するために買い受けたものであるときでも、…
事件番号: 昭和43(オ)717 / 裁判年月日: 昭和45年3月26日 / 結論: 棄却
甲所有の丁土地と乙所有の戊土地とを交換する契約が甲乙間になされ、乙が丁土地をさらに丙に譲渡して未だその登記を経ない間に、乙に対する国税の滞納処分として戊土地が差押公売されたため、甲が履行不能を理由に右交換契約を解除した場合において、甲が、交換契約に基づき戊土地を自ら使用しており、他方右契約当時においても丁土地が乙から丙…
事件番号: 昭和27(オ)911 / 裁判年月日: 昭和29年7月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産による代物弁済において、債務消滅の効力発生には登記等の具備を要するが、代物弁済契約自体に基づく所有権移転の効力は、特段の事情のない限り契約の成立(または停止条件の成就)によって生じる。 第1 事案の概要:債務者(上告人)と債権者との間で、期限までに債務の弁済がないことを停止条件とする代物弁済…