一 甲が地主丙から賃借中の土地上に所有する家屋を乙に贈与し、右事実を前提として、甲もみずから責任を持つ旨口添をして乙丙間に該土地の賃貸借契約が締結され、爾来その関係が九年余にわたつて継続してきた等判示のような事実があつたとしても、丙が右家屋を甲から買い受けてその旨の移転登記を経由するまでの経緯について判示の事情があるときは、丙は右家屋について乙の所有権取得登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する第三者にあたらないような背信的悪意者とはいえない。 二 不動産の賃借人が賃貸人から該不動産を譲り受けてその旨の所有権移転登記をしないうちに、第三者が右不動産を二重に譲り受けてその旨の所有権移転登記をしたため、前の譲受人である賃借人において右不動産の取得を後の譲受人である第三者に対抗できなくなつたような場合には、いつたん混同によつて消滅した右賃借権は、右第三者の所有権取得によつて、同人に対する関係では消滅しなかつたことになると解するのが相当である。 三 居住家屋の賃料の支払義務のない者が、該家屋の所有者から賃料支払の催告を受けたため、これを支払うべき筋合はないが賃料不払等とこじつけて家屋明渡訴訟を提起された場合の防禦方法として支払う旨とくに留保の表示をしたうえ、請求額を支払つた等判示事実関係のように、債務の不存在を知つて弁済したことも無理からぬような客観的事情がある場合には、民法第七〇五条の適用はないものと解すべきである。
一 登記の欠缺を主張するにつきいわゆる背信的悪意者とはいえないとされた事例。 二 不動産の賃借人が賃貸人から該不動産を譲り受けた後に第三者がこれを二重に譲り受けて先に所有権移転登記をした場合と民法第五二〇条の規定の適用関係。 三 民法第七〇五条の適用がないとされた事例。
民法177条,民法520条,民法601条,民法705条
判旨
不動産の賃借人が賃貸人から当該不動産を譲り受けた後、第三者がこれを二重に譲り受け所有権移転登記を了した場合、混同により消滅したはずの賃借権は、当該第三者との関係では消滅しなかったものとして復活し、第三者は賃貸人の地位を承継する。
問題の所在(論点)
1. 二重譲渡の第2譲受人が、第1譲受人の所有権取得を否定することが信義則上許されない「背信的悪意者」にあたるか。 2. 所有権を取得して賃借権が混同消滅した後に、その所有権取得を第三者に対抗できなくなった場合、賃借権は復活するか。
規範
1. 民法177条にいう「第三者」からは、不動産登記法上の明文がなくとも、信義則上これを除外すべき背信的悪意者が含まれる。 2. 不動産の賃借人が賃貸人から目的物の譲渡を受けて所有権を取得し、混同(民法179条1項)により賃借権が消滅した場合であっても、その後に第三者が当該不動産を二重に譲り受け登記を具備したことで、前の譲受人(元賃借人)が所有権取得を対抗できなくなったときは、第三者に対する関係では賃借権は消滅しなかったものと解すべきである。この場合、新所有者は賃貸人たる地位を当然に承継する。
事件番号: 昭和44(オ)211 / 裁判年月日: 昭和47年4月20日 / 結論: 棄却
不動産の賃借人が賃貸人から当該不動産を譲り受けながらその旨の所有権移転登記を経由していない間に、第三者が右賃貸人から右不動産を譲り受けてその旨の所有権移転登記を経由したため、前の譲受人である賃借人において右不動産の所有権取得を後の譲受人である第三者に対抗することができなくなつた場合には、いつたん混同によつて消滅した右賃…
重要事実
B2はB1から本件土地を借り、その上に本件家屋を建て所有していた。B2は上告人A1らに本件家屋を贈与したが、登記費用未払を理由に登記はB2に留保されていた。その後、B2は事情を知る地主B1に対し、上告人らが地代を延滞していることなどを理由に、本件家屋をB1が買い取るよう申し出た。B1はこれに応じ、売買を原因とする所有権移転登記を完了した。これに対し、上告人らは所有権を主張するとともに、予備的に賃借権の存続を主張した。
あてはめ
1. B1は、上告人らが家屋の贈与を受けたことを前提に土地賃貸借を継続していたが、B2から上告人らの地代延滞や登記未了の経緯を聞かされて同情し、B2の申し出に応じて買い取ったものである。このような経緯に照らせば、B1を直ちに背信的悪意者と断ずることはできない。 2. 上告人A1は家屋の贈与を受け一旦は所有権を得たため、賃借権は混同消滅した。しかし、B1が登記を具備したことでA1は所有権取得をB1に対抗できなくなった。この場合、A1が家屋の占有権原を完全に失うとするのは酷であり、B1との関係では賃借権が復活し、B1が賃貸人としての地位を承継したと解するのが相当である。
結論
B1は背信的悪意者には当たらないため家屋の所有権取得を上告人らに対抗できるが、上告人A1との関係では、混同により消滅したはずの賃借権が復活し、B1は賃貸人としての地位を承継する。
実務上の射程
混同の例外(179条1項但書)を拡張し、後発的に所有権を失った場合の権利救済を認めた重要判例。答案では、二重譲渡における背信的悪意者の該非を検討した後、所有権を失う元賃借人の保護として「賃借権の復活」を論じる際に用いる。
事件番号: 昭和27(オ)128 / 裁判年月日: 昭和32年9月19日 / 結論: 棄却
一 真正の相続人が家督相続の回復をしない限り、真正相続人以外の第三者は、個々の特定財産についても、表見家督相続人に対し、相続の無効を理由として、その承継取得の効力を争うことはできない。 二 表見相続人が被相続人の子であるものとしてなされた家督相続につき相続の無効を主張できない者は、被相続人の妻が表見相続人の母(親権者)…
事件番号: 昭和37(オ)396 / 裁判年月日: 昭和40年10月12日 / 結論: 棄却
第一審判決主文に民訴法第一九四条にいう明白な誤謬がある場合、控訴裁判所が控訴棄却の判決をするにあたり判決の理由中に理由を示し主文において右誤謬を更正しても違法ではない。
事件番号: 昭和27(オ)295 / 裁判年月日: 昭和29年9月17日 / 結論: その他
抵当権実行による競売手続において競落により不動産を取得した者およびその者から右不動産を買受けた者を共同被告として右不動産の所有者として抵当権の効力を否定する者から各所有権取得登記の抹消を求める訴は、訴訟の目的が共同訴訟人の全員につき合一にのみ確定すべき場合に当らない。